バッドエンドでもいいですか。(仮)
□第2話 出かけてもいいですか。
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部屋を出て階段を下りていく。もちろん翠と一緒に。
平日の昼間の居間には家族の姿はない。ソファーに囲まれたテーブルの上には父さんが毎朝読んでいる新聞と新築マンションのチラシが乱雑に置かれている。
腹減ってないか?と振り返れば翠はぶんぶんと顔を横に振る。ソファーに座ると翠も反対側のソファーへ座り込む。テレビのリモコンを手に取り電源を入れるとスイーツを食べ歩きする俳優たち。
翠はそんなテレビに夢中のようで時よりおぉ。とかおいしそう。とか独り言を漏らしている。肩にかかるほどの銀色の髪は光を受けると透明な川のように輝いて見える。
じっと観察をし過ぎて目線に気付いたのか突然翠が顔を向けてくる。慌てて目線を逸らしても翠は気にする様子はない。
「私の話信じてくれる?」
信じるも何も、ゲームの中から飛び出してきたというのはにわかには信じがたい。しかし翠は確かにゲームの中にいたあの子にそっくりだった。三次元になって雰囲気は少し変わってしまったけど。
そうだよねぇ。といいつつ翠の関心はまたテレビへと向かっていた。さっきスイーツを食べ歩きをしていた俳優たちは今は映画の告知をしている。どうやら今度上映する映画の宣伝も兼ねているらしい。
大好評上映中。大抵映画の宣伝の最後にはこの台詞。
「ねぇ、この映画見に行こうよ」
え、と思う。この映画はどう見ても俺の趣味には合わなさそうだったから。有名俳優が出る恋愛映画など17年で一度も興味を持ったことがない。
「その格好で行くのかよ」
当然のごとく翠はまだセーラー服。この家に女兄弟がいないので服を貸すこともできない。
「パジャマじゃないから恥ずかしくない!」
突然立ち上がられるものだから少し驚いてしまう。パジャマじゃないから恥ずかしくないってそういう話をしているのじゃないのに。それに
「学校サボってる風に見られるぞ」
「ゲームから抜け出してるからサボってるかもね」
翠が笑う。小刻みに揺れる小さな肩と長い髪。綺麗な翡翠色の目。こんな子となら学校おサボり気分でお出かけも悪くないなという気がしてしまう。
「ま、俺も駅前に用事があるからついででいっか」
まんまと乗せられてしまう。しかし不思議と嫌な気分ではなかった。
「じゃあ着替えてくるから外出て待っててくれ」
部屋に戻って着替えを済ませ追うように家を出た。