その他

□バレンタイン
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その日はテンパリングの練習をあきらめ…というか、調理室を使うのが嫌でやらなかった。


そして日が沈み、あっという間に昇る。



「ふわぁあぁぁあ…」


俺は大きく欠伸をしながら調理室の扉を開ける。

いつも、同室の花房より早く起きてテンパリングの練習をするんだが…今日はバレンタインの前日ということを忘れていた。

****

扉を開くと、大好きなチョコレートの香りが体をすり抜けた。

良い香りだ………。


チョコの香りにうっとりとしていると、泡立て器をかき混ぜる音がした。


「あ…」


「かっ…かか樫野!」


窓ガラスから差し込む光が眩しく感じる目で声がする方に目を向けると、そこには目を丸くした天野がいた。

急な出来事に嫌な汗が全身から出始める。


「お前…今日はいつもより早いな……」


俺はぶっきらぼうに発言する。

「かっ樫野はいつも通り早いんだねー」

ヘラヘラと笑いながら、天野は泡立て器をかき混ぜる。



「…お前」

俺は天野に近寄った。

「へ!?」

「混ぜすぎだ。中のチョコレートが少し固まってる」


そう言うと、俺は天野から泡立て器とボウルを取って、ヘラで中のチョコレートを手際よく溶かした。


手を動かしながら、俺は天野を意識していた。視線が‥‥‥‥

「……それより、天野」

「えっ…な、何!?」


いつもよりおどおどする天野に少し違和感を感じた。

「どうしてチョコレートなんて使ってるんだ?次の実習はホットケーキだし…何か良いアイディアが思いついたのか?」


「へっ!?違っ…」

「ん?」

俺は首を傾げた。


そうか、明日はバレンタインか…。


すると体がムズムズし始めた。

「それじゃあ、あいつらにあげんのかよ…」

いつの間にか、変なことを口にしていた。そんな自分に驚き、恥じた。

「違っ…今のは……」

変な汗をかきながら否定するが動揺しすぎて、違うんだ、と言えなかった。

すると、天野は手を後ろに組んで言った。

「樫野…」

ドキッ‥‥

胸が高鳴った。
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