或る画家の回想

□星の葬送
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日が暮れた頃から続く、鼓膜を震わせる雷鳴に私は微かに眉を寄せた。
描きかけの絵筆をおろし、目を閉じ、眉間を揉みほぐすと嘆息する、…作業に気が入っていないことを自覚する。

一時間ほど前に届いた、ジルクリスト邸のエマ先生からの知らせのせいだ。


―――いよいよ生まれるらしい、という。



***

クリス様が臨月に迎えた頃から、私はジルクリスト邸を訪問していない。

出産を控えたクリス様のため、という理由もあったが、その頃私は王妃陛下からの依頼の品に取りかからなければならなかったために、宮廷画家になった際に賜った、城の一室に籠もりきりになっていたのだ。


―――もともと私は、依頼の制作は気が乗らないことの方が多い(『描きたい』、という欲望からはじめた作品は驚くほど筆が進むのだが)。
他人からの頼みを絵にすることが嫌いなわけではないのだが、依頼を手がけている時はどこか『ずれている』のではないか、と時々考えてしまう。

とはいえ、仕事をこなすことを前提にセインガルド宮廷に迎え入れられた身だ。
当時の私は閉鎖的な子供ではあったが、こと画家としての将来に関わりかねない問題には自分から関わっていた(つまり、画家としての生活、絵以外のことには関心を払っていなかったのだが)。
依頼は、引き受けた以上はやり遂げなくては。

だが、エマ先生の手紙を受け取ってからはやはり身が入らない。

……ああ、またひときわ巨大な雷が落ちた。

今日は、特に雷鳴が鳴り響く日だ……。






そして―――この雷鳴が鳴り響く日に、運命の子が誕生したのだ。






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