或る画家の回想

□クリスという女性(ひと)
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私がクリス・カトレットなる女性に出会ったのは私が14の時、セインガルド宮廷付きの画家になった年だった。

その頃の私は天才画家などと世間で騒がれはじめた時期で、噂を聞きつけたセインガルド国王が私を、故郷のファンダリアから呼びつけたのである。

当時の私は世間というものにまったく関心がなく、絵を描くことのみに心を捧げていた酷く閉鎖的な子供だった。セインガルド行きを承諾したのも『まだ見ぬダリルシェイドを描きたい』という使者からの依頼を聞いて、心にふっと浮かんだ欲求に従ったからである。
その欲求が、後の私の人生を変えてしまう運命の出会いに繋がるとこの時の私は想像すらしていなかった。

***
ダリルシェイドに着いた私は、国王と謁見し、―――経緯は割愛するが―――セインガルド宮廷付き画家となる話がとんとん拍子に進められた。

それから私は、今にして思えば、不遜な願いを申し出た。


『城には住まず、ダリルシェイドで住民たちに紛れて暮らしたい』


前述の通り、私は自分が煌びやかな宮廷暮らしをすること、には興味がなく(むろん、絵のモデルとしては魅力的な場ではあったが)、むしろ故郷での暮らしのように静かな暮らしを望んだのである。


幸いにも国王はそれを受け入れてくれ、私は細かい決めごとをした後に城を去った。
その後私は紹介された下宿先(貴族街と平民街の境目あたりにある宿屋だ―――心地よい空間だった)へ赴き、荷物の搬入等々を頼んだ後、夕暮れ時のダリルシェイドを散策する事に決めた。



夕暮れ時のダリルシェイドは美しかった。
私は常に持ち歩いているスケッチブックを抱え、出歩く人々、風景を眺めながらふらりと歩いた。


―――そうしているうちに、いつのまにか貴族街に入り込んでいたらしい。私の目の前にはひときわ大きい、洗練された美しい屋敷があった。


「………?」


にも関わらず。その屋敷はどこか冷え冷えとしたモノに包まれていた。

私はなぜそう感じたのか分からないまま、そしてなぜかこの邸が気になり、門前に近寄ってみる。



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