゚*Phantom Hideaway*゚
□-きけ-
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下へ降りると、食欲をそそる芳しい香りがした。
どうやら朝食の支度はすでに出来ているらしい。
空腹を助長する香りは罪である。
「うわ、うまそ!」
「……ったく、自分の家じゃないんだからね」
「へいへい」
ユシェラはそう言って、焼きたてのパンが盛られたかごを
キッチンの奥から運んできた。
かごには花柄のナプキンが敷かれ、
傍らにはバターとバターナイフが添えられていた。
洒落た演出に、ルノゼアは格の高い宿泊施設の朝食を思い出した。
「そういえば、お前のじっちゃんは?」
「もうとっくに出掛けたわよ」
「はっ、早」
いつも早いのよね、とユシェラは取り皿を配りながら言った。
二人は窓に面したテーブルに向かい、席についた。
「いただきまーす」
「どうぞ」
朝日に照らされた朝食は更に食欲をそそった。
鮮度が輝き、とても見栄えが良い。
すがすがしい朝に食べる朝食は格別においしかった。
眼下に広がる、深緑の森とのどかなペルル村。
見たことも体験したこともない朝の景色に、気分もとりわけ良かった。
が、ルノゼアは表には出さなかったものの、
彼にとってはまだこの高さは怖かった――