゚*Phantom Hideaway*゚

□-であえ-
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「何か……ご用でしょうか」

「村長さんってどこにいらっしゃるのですか」

「村長ですか。村長なら

 あの゙ペキラの森゙の奥にいらっしゃいますよ」

「げっ、あの森の奥だと……」



ルノゼアは彼女の返答に顔を引きつらせた。

予想だにしない結果、と言えば嘘になるが、

大体察しはついていた。

この社会で言う村長は、

大概目立つ所で堂々と暮らしているか、

人目の着かない所に

ひっそりと暮らしているものである。

このような事情は、

村長である祖父を持つ自分が

一番良く知っていた。

レイクルの村長―祖父―も、

人目の着かない、林の奥に身を潜めている。

村民に紛れて、村の長は身を置くことはない。

ルノゼアは、少なくとも

村の入り口に程近いこの大通りに

村長はいないだろうと予想していた



「…………」

「どうされましたの?」



じっと森を見つめたまま、

動かないルノゼアを見て、少女は一言声をかける。

ルノゼアは我に返ると、別に、と軽く笑って

少女を見る。

彼女は小首をかしげ、

ルノゼアの顔をうかがった。



「゙ペキラの森゙は、

 別名゙人喰いの森゙と言われていますわ」



彼女がさらっと言いのけた、人喰いの森――

ルノゼアは、それだけ深いのかよ、と

内心突っ込みを入れると同時に

再び森を見た。

日の光を浴びて青々と茂るその姿は、

図太く青空にそびえている。

初見の者ならば、一瞬、

山と疑ってもおかしくはないだろう。

ルノゼアは、深い森に自ら入るという自殺行為に、

とりわけ引け目を感じていた。



「もし行かれるのであれば、

 充分お気を付け下さいませ」



ではこれで、と軽く頭を下げ、

少女はルノゼアに背を向けて

路地裏に消えて行った。

彼も頭を下げ、少女と別れた。

ここにずっと立っていても仕方がない。

そう考えた末、とりあえず森の入り口まで

行ってみることにした。



 
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