゚*Phantom Hideaway*゚

□-はじまれ-
3ページ/5ページ






辺りが闇に包まれた頃、

ウィガス市場は光と歓声に包まれていた。

あちこちに出された夜店は

どこも活気付いている。

いつも以上ににぎやかだった。

人々がにぎわう傍で、

村長とルノゼアはその様子を見ていた。



「うむ、これがあってこそレイクル村じゃ」

「この島で一番大きい村だから、

 一番輝いてなきゃ、な」

「良いことを言うじゃないか。

 ルノゼアは変な物でも食ったのじゃろか」

「っせーな」



ルノゼアはぷいっとそっぽを向いて、

ナッツを口に放り込んだ。



もうすぐ「聖なる北風(ファルー)」が吹く頃になると、

今までのにぎやかさが嘘のように、人々は静まり返っていた。

大人数の人々が集まっているのに音ひとつ聞こえないというのは、

なんとも不思議な感覚である。

彼らは北の方を注目し始め、「聖なる北風(ファルー)」を待った。



「来るぞ」



誰かがそう告げた時、フッと風が吹いた。

しかしその風は人々の背中に吹き付けた。

北から吹くはずの風が南から吹いたのだ。



「何じゃ、なぜ南から吹く」

「何だ、こらッ!?」



今まで起きたことのない出来事に困惑する人々。

大勢の人がワッと騒ぎ出し、辺りは瞬く間に混乱の一色に染まった。

何がどうなっているのか、察しが付かなかった。



「オイ、あれを見ろ!!」



掛け声で皆が振り向いた南方。

誰もが口を開け、目を丸くした。

それほど、衝撃的だった。

叫ばれた言葉の向こうから、黒い風が押し寄せて来たのだ。

それは夜空に紛れて、一見では捉えられない。

だが、黒煙のようにもくもくと、確実にこちらへやって来ていた。

それを見た誰もが不吉な何かを予感した。

人々は、困惑し、叫び、逃げ惑う。

動転した人々の空気に呑まれ、子供が泣き叫ぶ。

黒い風から逃げ惑う観光客で、ウィガス市場は大混乱に陥った。

謎の黒い風をじっと見つめる村長は静かにつぶやいた。



「……闇風か」



村長の言葉にルノゼアは振り返った。

聞いたことのない言葉に彼は眉をひそめる。



「なっ、何だよ、それ」

「詳しいことは後じゃ。

 それより今すぐ収穫祭を中止させろ」

「…………」



レイクル村に到達した闇風≠ェ人々の間をすり抜ける。

ルノゼアは今一度南方を見ると、唇をかみしめた。

闇風がそっと、ルノゼアの髪を揺らした。



「分かったか」

「お、おう」



村長の一言にふと我に返る。

委託されたルノゼアは人々に中止だと告げに回った。

パニックで道に迷った観光客を宿まで送り、

迷子の親を見つけ、震える人たちをなだめた。

通常は北風が吹くはずなのに、南風が吹いた。

今まで起きたことがない。

ルノゼアは村中を走り回りながら、闇風について思案していた。



 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ