short story
□『お菓子よりも甘いひととき』
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「フランシス、お砂糖ってこれくらい?」
エプロンをして、キッチンに立つエリザ。
一応、今はオレの彼女ってことになっている。
本人の前で、一応なんて言うと、おこられちゃうけど。
「うん。砂糖はこれくらいで、次はここに入れてかき混ぜて」
エリザはいつも、休日はオレの家でお菓子を作る。
食べたいなら、オレが作ってあげるのに。
でも、前そう言ったら、『私が作ったお菓子をフランシスに食べて欲しいの…っ///』なんて照れながら言うんだもん。
可愛くて、なんでも言うこと聞いてあげたくなっちゃう。
今日作っているお菓子はマドレーヌ。
何も入っていない、一番シンプルなやつ。
エリザは楽しそうに、生地を型に流し込んでいる。
オーブンに入れ、焼いている間にもう使わないボールなどを洗う。
時間の節約が出来て、賢い子だ。
うん、いいお嫁さんになるねぇ…。
そんないい子には、オレが飲み物を入れてあげよう。
「エリザ、コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
「そうねぇ…。紅茶って、アーサーさんのところの?」
オレの耳は“アーサーさん”に鋭く反応した。
でも、今は何も言わないでおこう。
「そう。この前、坊ちゃんから奪ってきたやつ」
「じゃあ、紅茶がいいわ」
オレは、エリザの要望に応え、紅茶を入れる。
ゆっくりと紅茶を入れていると、オーブンからはマドレーヌのいい香りがしてきた。
オレは紅茶の入ったカップを、リビングのテーブルに置く。
少し待つと、エリザが焼けたマドレーヌを持ってきた。
マドレーヌののったお皿をテーブルに置き、オレの隣に座る。
「いただきます」
オレがそう言ってマドレーヌに手を伸ばすと、エリザは嬉しそうにオレを見てくる。
「どうかしら?結構上手に出来たと思うんだけど」
「うん、おいしいよ!初めてにしては、いい出来じゃん」
「ありがとう!フランシスの教え方が上手いからね」
エリザは喜びながら、自分もマドレーヌを食べ始める。
2人で食べていると、お皿にのっていたマドレーヌはすぐに終わってしまい、エリザは紅茶を飲んでいる。
「ねぇ、フランシス」
紅茶のカップを持ったまま、エリザがつぶやくように言った。
「なぁに?」
オレがそう返すと、エリザはカップを置いた。
「さっき、コーヒーか紅茶か聞いてくれた時、私がアーサーさんって言ったの、少し嫌だったでしょ」
「……どうしてそう思ったの?」
「特に理由はないんだけどね。そう思ったの」
鋭いなぁ…と思うと同時に、別のことが頭をよぎった。
「エリザは鋭いね」
「やっぱり、そうだったのね。どうして?」
「オレはね、エリザが他の男の名前を呼ぶのが嫌なの」
エリザは「えっ!?」と言い、オレの方を見た。
「やきもち?」
少し笑いながら、聞いてくる。
「そう。いや、嫉妬って言う方が合ってるかも。だから、オレの前でオレ以外の男の名前は言わないでね」
「ふふっ。分かったわ」
オレは笑っているエリザをギュッと抱きしめ、自分の唇をエリザの唇に重ねた。
その味は、ほのかに甘いマドレーヌ。
(君の口は何のためにあるの?
それはね、オレの名前を呼ぶため、オレと話をするため。
…それと、オレとキスをするため)
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兄ちゃんぽくなくなっちゃった;;
なんか、独占欲の強い兄ちゃんて格好いいよね。
っていうのが書きたかったのさ!