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□本当は全部知っているくせに
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「なぁ、もうケーキ残ってねぇか?」
振り返ると2番隊隊長のエースさんが立っていた。エースさんとあたしは食いしん坊とコックの関係で仲がいい。
「あと1つだけありますよ」
そういえば、よっしゃー、とガッツポーズをする。
そんなエースさんをみて笑いながらいいことを思いついた。
「ちょっとだけ、向こうで待っててください」
早く、とせかすエースさんは不満げに口をとがらせたけど「ならあげませんよ」と言えば一瞬で食堂へ行ってしまったのでまた笑った。
準備をしてから行けば、既に食堂には誰もいなくなっていた。
「すみません、お待たせしました」
「おー、待ったぞ」
こちらを振り返るエースさんの顔がほころんだ。
「すげぇいいにおいだな、そのお茶」
あたしがエースさんを待たせて準備していたのは、前回上陸した島で買った紅茶だった。
「今日のケーキ、すごく甘くなってしまったので・・・。この紅茶は少し苦いから、一緒に食べればちょうどよくなるはずです」
そう言うと早速飲んで、「少し苦いけどうまい!」と笑顔が返ってきて、入れてよかったなぁ、と思った。
「相変わらずケーキ作るのう
まいよな」
エースさんが心底敬意を込めた様子で言ったので、くすぐったくなった。
「好きなものが得意なことって、すげぇいいよなあ」
嬉しくて頬がゆるむ。
「でもそれは喜んで食べてくれる人がいるからこそですよ。あちがとうございます。」
ぺこりと頭をさげれば、エースさんも、いやいやこちらこそありがとうございます、と頭を下げた。
二人で顔を見合わせて笑った。こんな何気ない瞬間に、幸せを感じるのはなんでだろう?
「ごちそうさまでした。」
エースさんは両手を合わせて礼儀正しく言った後、何かを悩むように顎に手を当てて下を向いた。
その後」、よし、と言ってから真正面つまり私の方を向いた。真剣な眼差しに心臓が、とくん、と跳ねる。
「いつもの礼っちゃあなんだが、次の島に上陸したら一緒にまわらねぇか?
なんかおごるからさ。」
「っ、はっ、はい!!」
声が裏返った。顔が暑くなっていくのが自分でもわかる。あれ、なんで熱くなってるんだろう?
「よかった、それじゃあな。」
そういって笑顔でそそくさと食堂を出ていくエースさんから目が離せなかった。
赤い頬を両手で押さえ、冷えたテーブルに額を
あてる。二人で、ってことは、その、あれ・・・
パニック状態の頭の片隅に、なんでこんなにあわてているんだろう、という疑問が浮かんできた。思考が止まる。
あれ、なんで?
考えようとしたけど、浮かんでくるのはエースさんがケーキ食べてるところとか、つまみ食いしに厨房に遊びに来て先輩コックさんにしかられてるところとか、食器洗ってたら手伝いに来てくれたこととか、。
でも最後にどーんと浮かんできたのは大好きなエースさんの笑顔だった。
ん、大好きな?
・・・あれ、そういうことだったんだ。
本当は全部知っているくせに
(気づいてないふりしてたんだ)
「あー、ついに誘っちまった!!!」
「やっとかよい・・・。(あいつの方は気づけたのかよい、いろいろと。)」