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□彼の大きな胸の中で
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「エース」

「ん?」

「…なんでもない」

「何だよお前。気になるだろ」

「だからなんでもないってば」



ふいっとエースから顔を背けて今開いてるページに目線を落とした。ここはエースの部屋で、先程まで静かにお互い読者(といっても雑誌だけど)をしていた。

わたしは一番隊に所属してるけど、二番隊隊長の彼と付き合っている。もちろん最初は信じられなかったけど、今となっては、どちらかの部屋でくつろぐくらい打ち解けている。



「エース…」

「何?」

「…なんでもなーい」

「だからお前なんなんだよ。言いたいことあんならいえよな」

「ほんとになんでもないから。さ、続けて読んでて」



そう言うと未だ不思議そうな顔をしながら、しぶしぶ雑誌に視線を落とした。わたしはあまりにもエースが真剣に読んでいる姿がなんだかおもしろくて、しばらく観察することにした。

途中何度か目を見開いたり細めたり、そんな姿にもいちいちどきどきしてしまうわたしは重症だろうか。

それからしばらくして読み終えたのか、エースは雑誌をぱたんと閉じると、小さくあくびをした。



「…何よんでたの?」

「んー、別に?」

「…変な本じゃないよね?」

「どうだろうな」



曖昧な返事をしたのが気になったけど、まあ今は流しておこう。わたしも自分が読んでいた物を閉じると、隣に居るエースに目線を向けた。



「エース…」

「だから何だよさっきから。なんか用か?」

「……」

「どうしたんだよ?」

「…あのさ」

「ん?」

「…やっぱなんでもない!」

「はあ?焦らすなって!なー頼むから言ってくれ!」


 
お願いだからー、とすがるエースはでっかい子犬みたいだ。わたしだって言えるものならさらりと言いたい、でも恥ずかしくてなかなか切り出せない。



抱きしめてほしい、だなんて。



前に一回エースから抱きしめてこようとしたことがあったけど、皆の前だったから恥ずかしい!と無理矢理断った。それ以来、わたしたちは付き合っているのに一回も抱きしめ合ったことがない状態が続いていた。

そりゃさすがに、淋しくなるってゆうか、恋しくなる。



「ぜ、絶対変なこと言わない?」

「?…多分」

「からかわない?」

「…うん」



「だ、抱きしめて…ください…!」



ぽかーんと口を開いたまましばらく硬直していたエースは、ようやく意味を理解したのか、ほんのり顔を赤く染めながらわたしを見つめた。



「え、だ、抱きしめるって、俺がか?」

「う、ん」

「マジで…」

「い、嫌だったらいい!全然大丈夫だから!」



そうは言っても、実際はやっぱり抱きしめてほしくて。上半身裸ってとこは恥ずかしいけど、やっぱりぎゅってしてほしい。


 
「…だ、だめ?」

「……」

「…じゃ、いいや。…っわ!」



急に腕を引っ張られたと思ったら、視界が真っ暗になった。でも、同時に背中に回る逞しい腕がエースのものだと分かった。

わたし今、抱きしめられてるんだ。



「…ばか、んな可愛いこというなよ」

「可愛いことなんて言ってませんけど」

「あーもう」



ぎゅうぅと強く力が入って、このままじゃエースに埋もれてしまいそうだ。苦しくて、まともな息もあまり出来ない。でも、やっと抱きしめ合うことができた喜びが大きくて、そんなの気にならなかった。



彼の大きな胸の中で



これからも幸せに過ごしていけたらいいな…―




END



 

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