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□貴方のコトをもっと教えて
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「はい、終わりましたよ」
包帯と消毒液、ガーゼを救急箱に仕舞いながらそう告げた。
「あァ、ありがとな」
お礼を言うイゾウ隊長の左手には今私が巻いたばかりの包帯が。
何でも、倉庫を整理しているときに誤って切ってしまったらしい。
それでナースである私の所に手当てを頼みにきたのだ。
白ひげ海賊団にも当然船医は居るのに、わざわざ私に頼むなんて‥‥‥彼に好意を抱いている私としては嬉しいのだけど。
「そんなに深くなくて良かったけど、次からは気をつけてくださいね」
そんな素振りは少しも見せずに事務的に言う。
「あァ、気をつける。助かったよありがとう」
「!‥‥どういたしまして」
柔らかい笑みを浮かべる彼にドキッとする。
動揺を悟られまいと、思わず愛想のない返事をしてしまった。
「じゃあもう行かねェと」
「あっ‥‥‥!」
「どうかしたか?」
彼が行ってしまうと思ったら、咄嗟に引き留めてしまった。
「‥‥包帯はマメに取り替えないといけないので、またいらして下さいね」
何とか誤魔化そうと必死に頭を働かせて最もらしい事を言う。
「わかった。また頼むな」
そう言うと今度こそ彼は医務室を出ていった。
「ハァ‥‥‥」
彼の足音が遠ざかって聞こえなくなると溜め息を吐いた。
手当てをしている間の短い時間とはいえ、彼と話をする折角のチャンスだったのに。
「まともに話した事と言えば怪我の経緯と状態だけって‥‥‥」
そう呟いて項垂れた。
16番隊の隊長であること、武器は二丁の短銃を使うこと、見た目とは裏腹に中身は男らしくて頼りになること。
彼について私が知っている事と言えばこれくらいしかない。
「あっ、あと意外と手はごついこと」
先程手当てをしているときに思った事を足してみるが、それでも片手で足りてしまう。
それにそんな事を知っている人はこの船にいくらでも居る。
どんなコがタイプだとか、好きな食べ物は何だとか、どうして化粧をしているのか、その髪は自分で結っているのとか。
知りたいことを上げたらキリがないのにその中の一つだって聞く事が出来ない。
「‥‥‥意気地無し」
誰も居ない医務室で自分に悪態を吐いた。
貴方のコトをもっと教えて
どんな些細なことでもいいの
貴方のコトをもっと知りたい
end