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□ねぇ、まだ願えば叶う?
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夜、

雲一つない、満点の星空に浮かぶ真っ白い月がスポットライトのように女を照らしていた。その歌声は闇の中で静かに響く、波の音と共に。


女は泣いていた。いや、正しくいえば泣くように歌っていた。歌詞はどこかの島の古い言葉で理解はまったく出来なかったが、その旋律、声色、リズムはまるで泣いているようだった。


美しい


只そう思った。それ以上でもそれ以下でもなく、只思った。



どこかで魚が水面を跳ねる音がした。すると女は歌うのを止め海を覗き込んだ。


「海も真っ暗ですね、船長」

「‥いつから気付いてた」

「ふふ、始めからです」


女の隣に立つ。たしかに、真夜中の海は昼間の青さはなく、夜の闇に包まれ真っ黒だった。跳ね返る月光がキラキラと反射していた。


「さっきの歌、」

「はい」

「どういう意味だ、俺にはさっぱりわからねぇ」


女は顔を挙げた。そこで初めて目が合った。琥珀色の丸い瞳には、俺ただ一人が映る。


「秘密です」


そういって女は微笑んだ。その今にも壊れそうな儚い表情と身体を、独り占めしたい、という衝動を抑えるのに精一杯だった。


「船長」

「なんだ」

「私の病気、
治らないんでしょう」

「‥‥」

「もうすぐ死んじゃうのね」


「‥‥‥」


「ロー船長、





愛してるわ」







その瞬間、星が大空を流れていった。同時に、俺は泣きじゃくる女を腕に抱き、何度も何度も同じことを願った。


(どうか、どうか)
(この女に)

(生きる時間を)
(愛される時間を)











ねぇ、まだ願えば叶う?


 

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