小説

□02
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学生が勉強する時期とはいつだろうか。毎日?いやいや、普段から勉強を真剣になんてする生徒なんて少ないはずだ。…多分

でもテスト期間といえば別だった。やはり全学年の生徒が勉強に励んでいた
当然の如く五年生の俺も勉強をしなければいけない。今回はいつも以上に勉強していたはずだった


















午後の実技の授業が終わり、俺は一人自室にいた
障子の隙間からは、時折生暖かい風が吹き込んでいた

この時間帯はいつもなら5人で夕食を食べている時刻だったが、どうしても今は食べる気になれなかった


「…やべぇよな……」


俺の手の中には今日返却されたばかりのテストが握り込まれていた
そしてそれは、一度潰したかのようにぐしゃぐしゃにされていた
それは他の誰でもなく、自分でやったものだった

誰もいない部屋で一人、流石にあれは堪えたなぁ、と静かに呟いた



















午前中の授業が終わった昼食の前のことだった
教室はざわざわと賑わっていた
賑やかなのは嫌いではないが、その大半がテストの話題となると自然に気分も下がってしまう


「あはは、またやっちゃったよ」

「雷蔵はいつもだな」


そう遠くはない場所で雷蔵と三郎の話し声が聞こえた


「どうしたんだ?」


二人の話しに、いつものように俺はあまり深く考えずにそう聞いた


「あぁ、この前のテストのことなんだが」

「テスト中に迷っちゃって…後半の方できなかったんだよね」


おかげで点数が…、と苦笑いする雷蔵。俺は当たり障りのない言葉を返すとすると、視線は自然に答案の方へ向いてしまった


「あ……」

「ね、悪いでしょ?」


雷蔵に悪気は全くなかった
でも今の俺には、どうとっても悪いとは思えない点数に悲しみを覚えることしかできなかった


「でも雷蔵がこんな点数取るなんて珍しいよな」

「雷蔵っていつももっと良いのか?」

「いつもはもう少し取れるんだけどな」


いつもと、同じ。雷蔵の困ったような笑顔
でもそれは何処か違って見えた。笑いながら会話する三郎と雷蔵が遠い存在に感じた



「そういう八はどうなんだ?」

「は?」


俺は片手に持っていた答案をぐしゃりと潰してしまった
そしてそれを素早く教科書の下に押し込むと、何もなかったかのように笑った


「さーな。忘れた」

「忘れたって…」

「そんなに悪かったのか?」


三郎がいつものように、にやりと笑う
三郎は雷蔵と同じ顔だけど笑顔は全く違う。この笑顔は他の誰でもない、三郎のものだった


「そんなんじゃねーよ。それより早く食堂行こーぜ」


俺は立ち上がり教室を出た。後ろから雷蔵と三郎の声が聞こえたが、振り向かずに俺は真っ直ぐ食堂にむかった





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