小説

□竹谷と過ごす
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「…八」

「……んー?」

「それ、おもしろいか?」

「…ん……」

「いつまで読む気だ?」

「んー…」


さっきからずっとこの調子だ

部屋に行ったは良いものの、中在家先輩のおすすめとかで貸してもらった本は余程お気に召したらしい

私を無視して八の視線は先程からずっと本に向けられていた


「八」

「………んー?」


流石にイライラしてきて、背後から本をバッと奪ってやった

怒った声が聞こえるが、それを無視して部屋の隅に放り投げてやった


「何す……!」

「やっとこっち向いた」


八が振り返ると同時にずいっと近づいた
突然の事に思わず顔を赤らめている八に満足げに微笑むと、そのまま後ろから手を回しぎゅーっと抱き着いた

前から、三郎、と呼ぶ声が聞こえるが、また無視してやった

二人の間にしばらく沈黙が流れる
でもそれは緊張するものでもなければ、息苦しいものでもなかった
ふわりとした、穏やかな雰囲気に思わず顔を綻ばせた


「…八が私を無視しているからだ」

「ちゃんと返事してただろ?」

「あんな気のないのは返事しているとは言わない!」

「うるせぇ、耳元で大声だすな!」


本当にうるさかったのか、八は耳元を押さえながら唸っている

そんな様子に気をよくしてまた微笑んだ


「ほらみろ、私を無視した罰だ」

「これは違ぇだろ…」

「だからさ、」

「ん?」


私は八から離れると障子をガラリと開けた


「今年も私だけを見ていろ」


障子を開けたおかげで、どこからか鐘が鳴ったのが聞こえた

その様子に八はぶっ、と吹き出した


「さぶろ…っ…すっげぇ、キザなんだけ、どっ…!」

「う、うるさいっ!」


八と口喧嘩しながら、私達は今年もこんな風に過ごしていくんだろうな、と心の片隅で思っていた


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