小説

□勘右衛門と過ごす
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「鉢屋、どうしたの?さっきからご機嫌ななめだよね」


きょとんとした表情で首を傾げる勘右衛門に私は立ち上がり声をあげた


「あのな…お前が私を無理矢理連れてきたんだろう!」


そう、勘右衛門は私の有無関係なしに自室に連れてきたのだ

もちろん私は勘右衛門と一緒に過ごそうとは思っていた
だけど……


「どうして無理矢理連れてきたんだっ」


バンッ、と強く机を叩くと机の上に置いていた筆が硯から転がってしまった


「だって、鉢屋本当は俺といたいでしょ?」

「だ、誰が……っ」


勘右衛門の言葉につい否定してしまう
そんな私に勘右衛門は少し機嫌を悪くしてしまった


「素直になりなよ」


ずいっと勘右衛門が視界いっぱいに入ってくる
それに少し後ずさりすると、それに合わせて勘右衛門も近づいて来る


「……っ」


しばらく防戦を続けていたが、とうとう壁際まで追い詰められてしまった


「鉢屋ー?」

「何だよ…っ」

「俺、悲しかったんだからね」

「え?」


急にかけられた意外な言葉に私の思考は停止する。


「俺が好きな人と一緒に過ごそうって言っただろ?そのとき鉢屋…」


勘右衛門は壁につけていた手を除け、顔を俯かせていく


「…雷蔵の方見て、頬赤らめて……だから俺…」

「え、ちょ、ちょっと待て!それは違う!」

「え?」

「頬が赤かったのはただ寒かっただけだ!」

「……へ」

「私は始めから…勘右衛門と過ごしたかった」


耳まで真っ赤にさせて小さく呟く私に勘右衛門は一瞬驚いた顔をして困ったように笑った


「…なにそれ…っ」


吹き出しそうになるのを懸命に堪えようとしている勘右衛門を見ると、こちらも笑いそうになってしまう


「ねぇ、鉢屋」


急に名前を呼ぶものだから何だと思い勘右衛門の方を見ると眉を下げて笑っていた


「…年、明けちゃったみたい」

「は!?」


廊下に出てみると、深夜にも関わらずがやがやと話し声が聞こえる

その中の多くは「あけましておめでとう」という新年独特の挨拶をしていた


「なんか、俺達らしいね」


あはは、と勘右衛門が笑っている
つられて私も笑った


「来年もその先もずっとずっと鉢屋と一緒にいられますように」

「…そんなの願わなくたって叶うさ」


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