小説

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ひらり



ひらり



俺の手をかわして自由に飛ぶ姿はまるで蝶のようで

いくら手をのばしても届かない

触れそうになったときお前達はまたひらりと手をかわす

そう、地面に縛り付けられた草花はいくら背伸びしても青空を自由に舞う蝶には触れることは出来ないんだ
















教室の窓から暖かい木漏れ日が差し込む
授業中の静かな教室、ぽかぽかと気持ちの良い暖かさ
これほど寝るのに絶好の瞬間は他にない

授業に集中しようとするが眠気には勝てず眠気と数分格闘したうえでついに素直に負けを認め、意識を手放してしまった










「………ち、…はち」

「……んっ…?」

「はちってば!」

「ん?あ…あぁ、雷蔵に三郎…」

「もう授業終わっちゃったよ?」


いつから寝てたの?、と眉を下げながら雷蔵が聞いてくる
でも寝ぼけていた俺にはその質問にもまともに答えられずにいた


「…んー?」

「雷蔵、八まだ寝ぼけてるぞ」

「だね…」


あはは、と雷蔵が苦笑いしている
そこでやっと俺の意識が戻ってきた

目を擦り、欠伸をしながら伸びをする
何処からかぽきぽきと音がするようだから随分寝ていたことに気づく


「はち、やっと起きたみたいだね。食堂行こう?」

「もうそんな時間か」


そういえば腹が減ってるな。もう昼になってたのか


「らいぞー、八、早く行こう。他のろ組はもう全員行ったぞ」

「うん、食堂混んじゃうからね。八行こ?」

「あぁ」


食堂に向かう足取りは妙に重く感じた
まだ寝ぼけてるみたいだな…


「もー、はち!僕の話し聞いてる?」

「聞いてる聞いてる」

「八、お前聞いてなかっただろ」


雷蔵と三郎と談笑を交えながらいつも通り、食堂に向かった

雷蔵の行った通り食堂は入り口の辺りから混んでいた
これじゃ結構時間かかるな…


「はっちゃん、雷蔵、鉢屋!」

「おー、勘ちゃんと兵助」


食堂の席から勘ちゃんと兵助が見えた
勘ちゃんはぶんぶんと音が聞こえそうな程、手を振っていた


「はっちゃん達が遅いから、場所と定食取っといたよ」

「おほー!流石だな」


俺達は勘ちゃん達のいる場所へと迷うことなく足を運ぶ
席について頼んでくれていた定食に手をつける


「なんで遅くなったんだ?ろ組の最後の授業はそんなに長引くはずないのに…」

「それがな、八のやつが寝ていたんだ。起こしてもなかなか起きなくてな…」


四人全員の視線が定食を食べている俺に集まる
何の話しをしていたか知らない俺は頭上に疑問符を浮かべて皆を見渡す


「…はっちゃん、授業ちゃんと受けてなかったのか?」


真剣な顔をして聞いてくる兵助に俺はにこりと笑って答える


「睡魔に勝てなくてなー。つい寝ちまったんだ」


前髪を掻き上げながら苦笑いする
自分でも駄目とわかっていても眠気に勝てるはずもなかった


「…はっちゃん……」

「また寝ちゃったの?」


はぁ、と溜め息をつく兵助と呆れ顔で俺を見る勘ちゃん


「お前らだって寝ることぐらいあるだろ?」

「「え?」」


俺以外の全員が顔を見合わせる
あぁ、そうだこいつら…


「お前達が授業中に寝るわけねぇよな…」


優秀だったんだよな
すっかり忘れてたけど、い組の兵助と勘ちゃんは言うまでもなく頭良いし、三郎は六年よりも優れてるって聞くし、雷蔵は成績優秀の優等生…

今考えたら何で俺、こいつらと仲良いんだろうな…


「…はち、どうかしたの?」


いつもと様子が違うのに気がついたのか、雷蔵が顔を覗き込んで聞いてくる

他の奴らも気づいているようだ
全員がこちらを見ている


「…んーん。なんでもねぇ!」


そんな雷蔵に俺は笑顔を向ける
その様子に安心したように皆はまた、話しを始める

そう、いつもと同じだったんだ
なのに俺は酷く不安になったような気がした





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