BOOK

□庶民による不見識
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学校の帰り道、普段は聞こえてこないようなか細い声が、私を呼んだ気がした。


「・・・・・・、あ」


耳を澄ませて音を拾い、その発信源に目を向ける。
するとこそには大きな二つの目。
小さなダンボールに入れられて、子猫が一匹捨てられていた。

その近くにそっと腰を下ろして、猫に触れようか触れまいか迷い・・・結局やめた。
とはいえ、無類の猫好きである。
そこから動くことも出来ず、ただその大きい目をじっと見ていた。


「お父さん、動物ダメな人だしなあ・・・」


つれて帰りたい、けどそうしたとして受け入れられる確立って何%だろう。
お父さんは動物が嫌いなのではなく怖いのだ。
こんなに可愛いのに。こんなにこんなに可愛いのに・・・―


「よし、」


ひとつ頷いて、バックから携帯を取り出す。
写メって送って、それで決めてもらおう!
もしかしたら、この可愛さにやられてオッケーしてくれるかもしれない!!
私はベストショットを撮ってやろうとグッと携帯を子猫に近づけた。
その時。




「・・・・・・・・・・・・おい、」
「うえあッ!!!!!!!!」


ピロリーン。
不意にかけられた声によって盛大に驚き、まぬけなシャッター音が鳴る。
ディスプレイには、ベストショットとは程遠いぶれた画像が表示されていた。
はあ。
小さく溜め息を吐いて、おそるおそる後ろを振り向けば影。
ではなくて、長身の男の人が私を見下ろしていた。
ぎょっとしたのはその威圧感ではない。
彼が着る、その制服だ。


「お、桜蘭・・・?」
「?」
「や、あの、何でもないです」


なんで桜蘭の生徒がこんなところに。
彼を見上げたまま固まっていると、当人はゆっくりとした動きで私のとなりに腰を下ろした。


「この猫、」
「、はい」
「拾っていくのか?」
「・・・・・・、はい?」


問いかけられた言葉は比較的理解しやすいものだったと思う。
だけどこの人が、桜蘭の生徒が言うとそれも別の言葉のようで・・・いや、理解出来たけどね?
私は若干しどろもどろになりつつあったが、落ち着けと言い聞かせながら口を開いた。


「私は猫が好きで、この子を拾っていってあげたいんだけど、」
「?」
「うちのお父さんが動物苦手で、でもこんな可愛い子だし、写メって送ったら気が変わるかもって思ったんだけど・・・」


そう言って、もう一度ディスプレイを見た。
それを見て彼は、すまなかった、と一言。
何だかこのままでは気まずい空気になってしまうような気がしたので、とりあえず話を振ってみる。


「あ、あの、あなたは何でここに?」


するとその人は、無言で猫を指差した。


「きのう見かけて、保護するつもりで今日も寄った」
「保、護・・・ですか」
「飼い主が見つかったなら、それでいいんだが」
「だが?」
「迷っているようなら、俺が一時預かるという事もできる」


そう言って子猫に手を伸ばし、迷うことなくその柔らかそうな毛並みに触れた彼にどうしようもなく心がときめいた。
さすが桜蘭?桜蘭の生徒って、みんなこんなに紳士なの?
ああいけない、こんなことを考えている場合じゃなくて。

フルフルと頭を振って思考をリセットし、彼に返答をしようと向き合えばその姿はなく。
背後に気配を感じて振りむけば、探していた人が鞄の中をゴゾゴゾと漁っていた。
そして出てきたのは、携帯。携帯?


「赤外線、できるな?」
「え?はい、もちろん」


私も立ち上がって、携帯をあわせる。
送られていたデータは、なんとこの人のアドレス、うわあ、マジでか。
混乱する私に「どうした」と声をかけるこの人のほうが私は心配です!


「い、いいんですか、これ・・・」
「何がだ」
「その制服、桜蘭ですよね?桜蘭の生徒が、こんな、初対面の一般人にアドレスなんて」
「?」
「悪用されたらどうするんですかって事!」
「するのか?」
「しないですよ!!」


な、何なんだこの人・・・。
身長高くて声低くて顔キリっとしてるのに何でこんなに抜けてるの?
桜蘭の生徒って、みんなこうなの?
軽いカルチャーショックに放心していると、頭に重力。
ハッとして目を働かせれば、何年ぶりだろうか。
頭を撫でられていた。


「こいつを引き取る目処が立ったら連絡してくれ」
「あ、ああ・・・はい」
「いい返事を、待っている」


今まで冷たささえ感じさせていた彼の表情が緩み、頭の重みが消えた。
猫ちゃんをダンボールごと抱え向かったのは、(彼の出現に気を取られすぎて全く気づかなかったが、すぐ近くに横付けされていたこれまた高そうな)車。


「待ってる」


最後にそう一言いって、謎の桜蘭の人はいなくなった。
残ったのは私と、さっき保存したばかりのアドレス。


「桜蘭・・・謎すぎる」


呟いた言葉は、車の排気ガスとともに空に消えた。






――――――――――
まさかの名前変換なし。

ハルヒ争奪戦に参加してない人物が少なすぎて、桜蘭は書きにくいです・・・。
それでもあたしはハルヒが好きだけどな!!←

  

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