長編

□犯罪者
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***

「佑也くん、ちょっといい…?」

中野の話がようやく終わってボーッとしてたら、聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。

振り返ると、クラスメートの佐藤咲(サトウ サキ)が立っている。

「ああ咲、どうした?」
「あ、前借りたこれなんだけど…ありがとう」

差し出された袋を覗いてみる。
"復讐"というタイトル…確か数週間前に貸した漫画だ。

話は単純なんだけど、台詞の言い回しとか、キャラクターとかが激しかったり濃かったり、なんかよくわかんないけど、一時期すげー流行ったヤツだ。

「どう?面白かった?…訳ないよな。」
「あ、ううん、そんなことないけど…」

咲が困ったように笑う。
けど本当に、咲はもうこの漫画を読んで"面白い"なんて思えないに違いない。
もちろん、俺もだ。


***


…HRの前に、佑也くんに漫画返そう。


彼、田辺佑也くんは、私と双子である倖(サチ)の彼氏で…ずっと前から私が好きだった人でもある。

佑也くんとは、倖よりもずっと前に出会ってた。
それからずっと好きだった。

けど、私は自分に自信もないし、度胸もないし…

比べて倖は、私と双子だなんて思えないほどハキハキしてて、明るくて、みんなに好かれてた。
佑也くんの彼女が倖でよかった、と思う。


「これ、ありがとう…」

彼に借りていた漫画を手渡す。

「どう?面白かった?」

漫画をパラパラと眺め、そしてすぐに「訳ないよな…」とつぶやく彼。

そんなことない…って言いながら、私も、多分彼も、同じことを考えていたと思う。


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