長編
□犯罪者
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チャイムの音とともに、校長のだるい話が終わった。
あとは教室に戻ってHRを終えれば、いよいよ夏休みだ。
特に楽しみだったわけじゃないけど、ただボーッと授業を聞くために学校に来るのよりはマシ。
俺は田辺佑也(タナベ ユウヤ)。
現在、私立多川高校の2年生。
趣味はこれといってないけど、最近は小説にちょっとハマってて、ベタだけどシャーロックホームズとか赤川次郎とか、推理系をよく読む。
それから、人間観察…まあこれは趣味っていうか癖かな。
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体育館から教室に戻ると、クラスメートはまだ数人しかいなかった。
とりあえず自分の席に座って、読みかけだった三毛猫ホームズの続きを読む。
俺的には三毛猫シリーズより、魔女シリーズ(?)のほうが結構好きだったり。
まあホームズも可愛いんだけど、猫にホームズって名前はどうなんだ。とか思って。
…いや、すげー個人的な話なんだけどさ。
しかも嫌いな訳じゃないし。
そんなことを思っているうちに、だんだんと周りが騒がしくなってきた。
顔を上げるとクラスメート達が教室に戻ってきていて、みんな休み時間のように騒いでいる。
隣の席の中野なんて、ヘッドフォンを付けずに携帯で音楽を流して、しかも歌ってるし。
「めぇーると、溶けてしまいそおー…!」
中野の声とともに、ロボットみたいな声が教室内に響き渡って、かなり異質。
こーいーにーこぉいなーんてしなぁいよーわーたーしー
「…中野、それ何の曲?」
「うぇッ!田辺知んねーのかよ!ミクだよミク!俺にボカロを語らせたらなあ…」
中野の説明によると、どうやらボーカロイドっていう機械(?)が歌ってる曲らしい。
動画サイトで流行ってるっていうのは聞いたことあったけど…
実際聴くのは初めてだし、中野いわく人の声にしか聴こえないというその声は、俺からしたらどう聴いてもロボットにしか思えなかった。
「…あとはさぁ、リンレンっていう双子キャラもいるわけよ!」
中野が熱く語っている。
ぶっちゃけ気まぐれに尋ねただけだし、ボーカロイドの話はもうどうでもいい。
「中野ぉ!リンの曲かけてよ!」
中野と仲が良い鈴木さんが遠くからリクエストをしてきた。
鈴木さんもボーカロイドが好きらしい。
「わかったわかった…でさぁ田辺、そのリンレンは双子じゃないって話なんだけど…」
あ…飛行機雲。
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