お題小説
□無意識のゼロセンチ
1ページ/1ページ
──次の日の朝。
少し日が上ってきた時。
実弥は城下町を走っていた。いや、“追い掛けられて”走っていた。
『いぃぃぃやぁぁぁぁ!!!!!!!!』
「Wait!!honey,何で逃げんだよ!?」
『追い掛けられてるからでしょうぅぅ!?』
「だとしても、追い掛けるのヤメたら逃げるだろーが!!」
『うん』
「……テンメェ……」
何故こんなことになっているかというと、遡ること数時間前──
『幸村ー、佐助ー、おはよう!あと、行って来まーす』
「待って、どこ行くの!?」
大声で行って来ますを言った実弥だが、どこに行くか知らない佐助は瞬時に実弥の目の前に現れ、実弥の首元を急いで掴む。
『ちょっと城下へフラりと行って来ようかと思ってねー』
「だからって、俺様達に何も言わずにどっか行くのは違うでしょ?」
『言ったじゃん、今』
「今のは行って来ますしか言ってないでしょ?」
少し怒り気味の佐助に気圧され、実弥は急いで逃れようとした。
『お願い佐助!!城下が私を呼んでるの!!!!』
「それ空耳だから大丈夫だよ」
『(…佐助に勝とうとした私が馬鹿だった…)』
ガクッと頭を垂れる実弥。それを見た佐助は少しやりすぎた、と思い首元を掴んでいた手をパッと離す。
『?』
「いい?実弥ちゃん。行くのは反対しないけど、どこに行くか、いつ頃帰ってくるのか、とかは俺様か旦那にきちんと言ってから出掛けてね?」
『……オカンみた──』
「はーい、もう城下に行くのは禁止ー」
『ごごご、ごめんなさい!!』
「分かればよろしい」
佐助の天然保護者肌な発言を聞いていて思わずオカン発言をしてしまい、城下禁止令が出そうになったが、勢いよく謝ったお陰で取り消しになった。
「とりあえず、護衛は付けるからね?」
『むー…。まぁ仕方ないか…』
「信用ある部下だし、影で見守らせるから安心して」
『はーい』
そして、城下に下りて束の間に、政宗に見つかり
「Good morning,honey.わざわざ出向かなくても良かったみたいだなぁ…。お陰で煩くて邪魔な野郎がいないみたいで何よりだぜ…」
『♯〇%*□※!?』(声にならない叫び)
…──そして、今に至る。
『もう…ハァ…ハァ…嫌、だぁぁぁぁああ!!!!』
「なら走んじゃねー!!!!」
そろそろ実弥の体力がなくなってきて、段々政宗との距離が近づいてきた。
『(ヤバいよ…もう無理ー!!追い付かれるー!!!!)』
「観念しな!アンタは俺と奥州へ行くんだ」
すると、政宗の手が実弥に伸ばされ、もう捕まる、と思ったその時──
「おぉっとー!実弥ちゃんは渡さないよー?」
上から聞き慣れた声が聞こえたかと思うと、実弥の体がフワッと浮いた。
『えっ?う、浮いた!?』
「なっ!?」
しかし、実際浮いたのではなく、佐助が実弥のことを姫抱きにして、政宗から遠ざけるために、地上から空中へ跳んだからである。
『えっ…さ、佐助?何で…ここに?』
「実弥ちゃんがあんだけ大きな声で“いやぁぁ”って叫んだら嫌でも聞こえちゃうって(本当は俺様が見張り役だったんだけど…)」
『アハハハハ。お恥ずかしい…』
まさか佐助が見張りをしていたなんて知らない実弥は、気まずそうに苦笑いした。そして、佐助が近くの家の屋根の上へと着地した。
「っち。猿!テメェ…いいところで邪魔するんじゃねぇよ!!」
「いやいや、実弥ちゃんの危機となれば、俺様どんなところにだって飛んでいくつもりだから」
「Ha!テメェにゃ実弥のことなんざ任せられねぇぜ」
「それはこっちの台詞。実弥ちゃんが竜の旦那のところに?ふざけるのも大概にしてほしいね」
二人は火花を散らす。
しかし、当の本人は今だに佐助に姫抱きにされているため、羞恥が芽生えてきた。
『さ、佐助…』
「ん?どうしたの?」
『下ろしてほしいなー…なんて…』
「ダーメ。ここ何処だと思ってるの?屋根の上だよ?
落ちずに立っていられる自信がもの凄ーくあるなら別だけど?」
『い、いや…このままでいいです』
「分かればよろしい」
『(あれ、デジャヴ?)
…重くない?』
「いや、平気だよ?実弥ちゃんは軽過ぎるくらいだし…」
『アハハ、ありがとう。佐助はお世辞が上手いよねー』
「お世辞じゃないんだけどなー…。っと、そろそろ城に戻るよ?下の五月蝿いのは放って置いていいからね」
『分かってまーす』
「テメェ等…いい加減にしやがれ!!!!」
下で政宗が吠えているが、二人はお構いなしに城へと戻っていった。
*******
「到着っとー」
『ありがと、佐助』
実弥は下りる準備をしていたが、佐助が実弥を下ろす様子はなかった。
『さ、佐助?もう下ろしてもいいんじゃないの?』
「…………………」
実弥は、佐助が何を考えているのか分からなかった。
『さす──』
「実弥ちゃん、足少し捻ってる?」
『Σギクッ』
そう、追い掛けられている時、石を踏んで少し捻ってしまったのだ。そんなに痛くなかったし、気になる程ではなかったため、佐助にも黙っておこうと思っていたのだ。
「はーい、手当てしようねー」
『い、いいよ!大したことな──』
「手当てしようねー?」
上を向けば満面の笑みの佐助がそこにいた。少し黒い笑みだが…。
実弥は姫抱きにされているため、お互いそれなりに顔が近い。
『っ!!』
佐助の笑顔を見た瞬間、実弥の心臓は何故か跳ねた。そして、顔に熱が集まるのが分かり、佐助にバレないように急いで顔を逸らした。
「ん?俺様の顔になんか付いてる?」
『い、いや何も付いてないよ!?』
「そっか、そりゃーよかった。この俺様の顔になんか付いてるなんて許されないからね!」
『…あぁ、佐助も政宗みたいに接されたいの?』
「冗談だよ…」
よっぽど実弥に冷たく接されたくないのだろう。もの凄く嫌な顔をした。
その会話を最後に、二人は奥へと消えていった。
無意識のゼロセンチ
姫抱きされてみたいなー←
こうヒョイっとね。
3 へ