紅眼の少女

□第六章
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『──その時会った忍は、後に伝説の忍と謳われるようになった風魔小太郎だと知ったんですが…』

「Hum...よく殺されずに済んだな」





そう、風魔小太郎が伝説の忍と謳われる理由は――


“その姿を見た者は必ず排除される”


そう言われているからだ。私はその姿を見たにも関わらず、今もこうして生きている。





『…私もそう思います…。あの時、何故助けてくれたのか未だに分かりません。
ですが、とても感謝しているんです。心の内にあったモヤモヤしたものもなくなりましたし、自分のしたいことも明確になりましたから…』





私は少し俯きながら微笑む。あの時、小太郎に会っていなかったら、私は未だにあの場所にいたかもしれない。
けれど…お二方が今も変わらずにいてくれたなら…楽しく笑っていられたのかもしれない。そう考えると、表情が微笑みから無表情に変わった。





「そうか…」

『…まだ、お話しなければいけないことはあるのですが…すみません。今は…ご勘弁を…』





私は座り直し、二人に深く深くお辞儀をした。





「Ah...別に構わねぇ。まだ傷も癒えてないのに、無理言ってすまなかった」

『いえ、これから仕える主には、早いうちに分かってもらいたかったですし』

「今日はもういい、と言いたいところだが、これから宴でアンタのことをアイツ等にちゃんと紹介しておきたい。まぁ宴まではまだ時間があるがな」

『はい。宴ならば、大丈夫です…』

「そうか」

『けれど、やはり私なんかの為に宴なんて少しやり過ぎでは…』





私は少し戸惑った。私はただの忍であって、武将や客人とは違うのだ。





「それに関しては、俺がやりたいって言うのもあるから気にすんな」

『…え?あ、そうなのですか?』

「Ah.久しぶりの宴だしな!アイツ等も楽しみにしてる」

「…先程から辺りが騒がしいのが、その証拠だ」





と、今まで黙っていた片倉様が部屋の外をチラッと見た。
確かに少し騒がしい…。真剣に話をしていたから気づかなかった…。
今まで黙っていた理由は、これだったのかもしれない。実際、片倉様は頭を抱えていた。
その後、適当な話をした。





********





「それじゃ、宴まで適当に過ごせ。時間になったら女中に呼ばせる」

『はっ。了解しました。お気遣いありがとうございます(どうせなら、城の探索でもしようかな…?)』

「No problem.
…だが、まだ怪我が治っていないんだから、動き回るなよ?」

『(…バレてる)…はい』





政宗様は鋭い勘をお持ちのようだ。けれど私は忍であって、こんなことをバレるようでは、私…忍失格なんではないのだろうか…。


そう思い、一人悲しくなった。





そう言うと、政宗様と片倉様は私の部屋から退出した。
それと同時に私は二人に見せるために外していた眼帯を付け直す。ついでに髪も結う。
そして、手に持っている二対の短刀を見つめる。





『(秀吉様…半兵衛様…。私は…、私はこの刀を貴方達の為に振るうことを誓ったのに…何故変わられてしまったのか…原因は知っている…だけど…っ)』





私は、目を瞑り、そこで思考を停止させた。過去のことを考えても仕方がない。現実はもうどうにもならないのだから。

そうなると、暇なことに気が付いた。政宗様から派手に動くな命令が出ているため、探索にもいけない…。
そこで、手に持っている短刀の刃を研ぐことにした。攻撃を受けた日から何も手入れをしていない。
そう思い、砥石を兵士か誰かに貸してもらうために、部屋を出た。





*******





周りを見渡しながら、廊下を歩く。少し傷が痛むのだが、痛みに慣れている私にしてみればどうってことはなかった。
城の造りを興味深く見ながら、ある角を曲がるところで、前方不注意で誰かとぶつかってしまった。





ドンッ!!
『「!!?」』





前方から、私と同じく角を曲がってきた人物と思い切りぶつかってしまい、私は危うくこけそうになる。上手くバランスをとり、こけることはなかったが、かなりの衝撃だった。

相手の方は怪我をしていないだろうか?





『す、すみません!お怪我はありませんか?』

「いや、それはこっちの台詞。大丈夫だった?」

『はい。お気遣いありがとうございます』

「そう、なら良かった。俺の方こそごめんね?」





そしてやっと、お互い顔を見た。





「……あれ?君、見ない顔だね?もしかして、新人さん?」

『…えっ?あー、そんなところです』

「そうなんだ。俺は伊達成実。君は?」

『(…伊達?)あ、申し遅れました。私は咲夜と申します』

「咲夜ちゃんか、いい名前だね!」





この伊達成実様という人は多分政宗様の重臣なんだろう。確か伊達の三傑としていたはずだ。

しかし…何故“ちゃん”付けなのだろう。
…………まさか





「…ところで君、女の子…だよね?」

『!!?(何で分かったんだ)』

「何で分かったか、不思議そうな顔してるね…知りたい?」

『……………別n「それはねぇ…」!?(私の返答は最初からどうでも良かったのか)』

「やっぱり男と女じゃ線が違うよ。いくら袴着てるからってその線までは隠せないしねー。男に見せようとブカブカにはいてても、元が細かったら動いた時に分かるしー…」





と、得意気にペラペラと喋りだした成実様。私の返答は肯定でも否定でも良かったらしい。





「それにさー、咲夜ちゃんがそんなに可愛い顔してたら、すぐに女の子だって分かっちゃうよー?
いくら梵と同じ隻眼でも、その可愛い顔は隠せないよー?」

『………は?』





“梵”という名前が引っ掛かったが、それ以上に今までこの格好をしていると、絶対という程男に間違えられる私に、“可愛い”なんて口にした方に驚いた。
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。





「なのに、何でそんな格好してるの?」

『……今はこの格好の方が何かと都合がいいので……』

「えっ!そんな理由!?もったいない!どう?今から着替えて俺とお茶しに城下に行かない?」

『はぁ?』





またもや気の抜けた声を出してしまったが、そんな声を出した後に廊下を走る音と共に、怒号の声が聞こえた。





「──成実!!何してやがる!!」

「げっ!!梵!?」
『…梵…?政宗様の間違いでは…?』





声の主は政宗様だった。けれど、成実様は政宗様の声を聞いて“梵”と言った。
思わず成実様に聞いてしまった。





「え?あぁ…梵って言うのは政宗様の幼名だよ」

「Shut up!成実、余計なこと言うんじゃねぇ!!」

『…政宗様の…幼名ですか?』

「本当は“梵天丸”っていうんだけどね」

「成実…いい加減にしろよ…?」





沸々と苛立ちが募って来たのか、握った拳がフルフルと震えだした。
そこまで怒らなくても…と思いながらふと疑問に思ったことを口にする。





『しかし何故、国主である政宗様とそれほどに仲がよろしいんですか?』

「んー…なんでだろうね?歳が近いからっていうのもあるだろうし…昔から一緒だったっていうのもあるだろうし…」

『それだけで、ですか?』

「多分そうだね」

「俺も特には気にしてないからいいんだよ」

『なるほど…』

「だが、俺のことを“梵”と呼ぶのはやめろよ?」





あくまでもそこには執着心を抱く政宗様に、私と成実様は呆れた。





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