隔離部屋

□まわる。
1ページ/5ページ


良い予感は大概外れるくせに、嫌な予感はどうしてこうも的中するのだろうか。

どこかで出会った誰かは言った。そう思った瞬間から、気づかぬ間に自分でそちらを目指しているのだと。心の奥底で、本当はそれを望んでいるのだと。

間違ってはいないかもしれないと、その時はなんとなくだがそう思いもした。だが、今回のような場合では、その言葉を信じることなどできないのだ。

そう、オレはこんな事を望んじゃいない。目指してなんかいない。胸を張って、いくらでも言ってやるさ。オレはこんな事を望んでなんかいない!


「どうした?そんな納得のいかない様な顔をして…?」


納得できるわけがあるか。口を開くのでさえ嫌になる。ついでに目を開わせることも。


目の前で、気持ち悪い程良い笑顔をしているのはアホ魔王……もとい、サタン。

そしてオレは今、借りを返すためとはいえ、とてつもなく変な格好をさせられていた。


「おい、もういいだろう。早く着替えさせろ」

「何がそんなに不服なのだ?可愛いではないか!」

「……止めろ。その言葉が服に対してだとしても気持ち悪い」

「あぁ、カーバンクルちゃーん。これで一心同体に……」

「止・め・ろ!!」


全身黄色の着ぐるみ。それは、いつもアルルと一緒にいる黄色い生き物とよく似ていた。むしろそれだ。

理由は知らんが、カーバンクルをこよなく愛すコイツは、ぬいぐるみじゃ飽きたらず、ついに着ぐるみまで作ってしまったらしい。コレもぬいぐるみの方もそうだが、見れば見る程良くできているのが気に入らない。

サイズはサタン用に作られているため、オレには少し大きい。……そこがまた気に入らない。


兎にも角にも、オレはそれを着せられて、ジロジロと眺められているわけだ。


「いい加減にしろ。もう十分見ただろうが」

「ほう?助けてやった恩人に対してその言い草か?」

「ぐっ…!い、いいから……早くしろ」

「まぁ待て、そう急かすな。何かが減るわけではないだろう?」

「オレの精神がガリガリ削れていくわ!」


たとえ部屋にコイツしかいないと言っても、こんな格好で居るのには抵抗がある。ずっと誰かに見られているのも落ち着かない。

こんな奴に借りを作ったオレが悪いのは分かっている。分かってはいるが、恐らく他の選択肢は無かったんじゃないだろうか。

何せその時のオレは、話すことさえままならなかったから。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ