□青春ランナウェイ
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汗が弾けて光る。
青空の下を何を思わず駆ける。
歌うように彼は足を前へとやる。
本当に楽しそうに、本当に歌っているかのような笑顔で、彼は芝の上を駆けるのだ。



ああ眩し過ぎて、眼が眩む。





*




「っあー! くっそおおおお!」



達海は赤いギブスを脱いで空を仰ぎながら叫ぶ。
汗が眼に入り、痛い。しかしそんな事はどうでもいい。
ぐぅ、と唇を突き出す。後藤には子供臭いから止めたらどうだと言われたが、癖も癖、無自覚なので矯正はほとほと難しい。



「達海、汗」


ほら、拭け。
苦笑いを浮かべながら後藤は達海にタオルを渡す。
うー、と達海は後藤からタオルを受け取り、首に巻いた。ああ、くそう。と言わなくても、雰囲気で分かった。
悔しいんだな、後藤は笑う。




「今日は絶対勝てると思ったのに!」


あー! と達海は二度目の叫びを惜しげもなく発する。それに後藤を含め、周りは笑った。
夏の太陽は容赦なく疲労を与えていくというのに、達海はそれを気にもとめていないのか、元気というかよく動くというか。
猟犬とはまた例え難いし、それとはまた違う。
子犬にしては吠え過ぎるし、それより何より走り過ぎる。そして、容赦ない。
悔し気に足を抱く達海に近付く影。
それを恨めしそうに達海は見つめる。影が笑う。



「まだお前には勝ちはやらないよ」



汗が流れていても、余裕の笑顔なのか、口元を微妙に上げている成田。
この部のキャプテンであり、そしてエースでもある成田は、達海を見ながら肩を竦めた。
微塵も悪いなんて思ってないんだから、肩なんて竦めんなよ、と達海は成田を見ないで呟いた。



「達海! 先輩なんだから敬語を、」

「ごとーだって、俺からすりゃ先輩ですけどー!」



やけくそ、という表現は可笑しいだろうが、こりゃあ随分やさぐれたな、と後藤は溜息を吐いた。
達海は一年、後藤は二年、成田は三年だが、一応成田には敬語のようなものを使うが、後藤には敬語を使った事すらないし、先輩とも呼ばない。まぁ、幼なじみだからしょうがないかと後藤は諦めているが。
どうやら成田に負けたことがそうとう不満だったらしく、唇をまた突き出した。
達海の癖。幾ら指摘しても治らないんだよなぁ、後藤は達海の横に座って、タオルで頭をがしがしと拭いてやった。
それが不満のようで、頭を振って無言の講義をすると、後藤は溜息を吐いて言った。








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