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□魅せられて、
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「やッ、だー!」
練習中以外には滅多に聞かない達海の大声に、椿は驚いてそちらを振り返った。
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「ど、どうかしたんスか?」
思わずそちらに走って行って見た光景は、達海が後藤に部屋から引きずり出されている所だった。
普段からだらしなく着こなしているパーカーは肩からずり落ち、タンクトップがちらりと見えた。
だらしないと思うのと同時に、そういうのは見せないで欲しいと願う。
無論、そういう意味で。
「あ、椿! ちょうどよかった!」
ワイシャツがぐしゃぐしゃになり、髪も何時もより乱れている後藤が椿を目で捉える。
ネクタイを達海に掴まれもみくちゃにされ、色々と修羅場である事は分かった。
なんですか?! と後藤につられて思わず音量を上げてしまう。
「ちょっと達海を俺の車にのせ…で! 達海、噛むな! こらっ」
「うー!」
がぶっ、と達海が後藤の腕に噛付く。
本当に35歳がする行動かよ、ありえない、と40歳を目前にした後藤は達海をひきはがす。
うわあ、歯形がくっくりだろうなぁ、と痛みに瞬き。
それにしてもここまで嫌がるとは予想以上である。
「熱出てんだから病院へ行くのは当たり前だろうが!」
後藤の達海への説教に、椿は全てを理解した。
──事の始まりは小一時間前、後藤が達海に頼まれたDVDやらなんやらを持って行った時、だ。
「あれ、お前顔赤くないか?」
「えぇ、そう…?」
「ちょっとデコ触らせてみろ」
「えー、せーくーはーらぁー」
「いいから、…って、お前! これ完璧熱あるだろ!」
「……いいや、ないよ」
「嘘吐け! 病院行くぞ! えー、と保険証…?」
「いや、無理。行かないよ、俺」
「はぁ?! 何でだよ!」
「これ見ないとヤバいの。今日中に」
その言葉に、温厚温厚言われている後藤も憤怒した。
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