□私のアタラクシア
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「…に、すんだよ」



はぁ、はぁ。息をしながら後藤を睨む。煙草は墜落したまま息絶えてる。
煙が出てないのは、何時の間にやら後藤が踏んだらしい。
煙草高いのに、ばかやろう。



「苦いなぁ、やっぱり。口の中」

「お前…っ!」



にっこり爽やか前回の笑顔に、俺は怒鳴ってやろうかと腰を上げる。
でもいきなり立った所為か、バランスを崩す。
うわっ、と前のめりになった所を後藤に抱きとめられる。あぁ、とことん阿呆臭い、俺。




「なぁ、達海」

「……んだよ」



抱きしめられて、頭を撫でられて、優しい声を出されて、もう俺に逃げ道なんて何一つ残されて無い。




「煙草、止めて欲しいなぁ」

「はぁ…?」

「健康上だって百害あって一利なしだぞ? おまけに高い」

「高い方が、おまけかよ」



不貞腐れたように唇を尖らせると、あぁ悪い悪いと後藤は笑う。
大きくて骨張っていて男らしい手が、俺の頭を撫でる。
あやされてるみたいでムカつく。
けど、何故だか落ち着く。子供か、俺は。




「それより、なにより」



後藤が俺に向き直る。
気恥かしくて見たくなかったけど、それを悟られたくなかったから俺も渋々後藤を見る。
あぁ、なんか、もう。全部ばれてそう。
っていうか知ってるだろ、後藤。
俺が煙草吸う理由も、何もかも。




(構って欲しがってるのも、知ってるだろう、)

(意地悪野郎め!)






「キスする時、苦い」




笑う後藤に、俺は返す言葉も見つからなくて、足を蹴ってやった。






(勿論顔が赤くなったのは気のせいだ)
(絶対!)








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