□灰色エキセントリック
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*もしも後藤さんが煙草を吸っていたら(ゴトタツ)





「うえっ、くさっ!」

「わ!?」



一人事務所で一服していた所にいきなりの声。
俺は驚いて身体をビクつかせる。
そりゃそうだろう。
23時を少し回ったそんな時、挙句誰も居ないと思っていた所に声かけられたら誰だって驚く。



「たつみ?」


寝てたんじゃないのか? もしくは、部屋に籠って堪りに堪ったDVDを蹴散らしていたんじゃないのか?
そんな思いを込めて現れたクラブチームの監督を見る。
眠そうに目を擦って、不機嫌そうに唇を突き立てる。
だらしなくパーカーを羽織って、スリッパをパタパタと鳴らしてやってきたのだろう。
こんな時間に、何故?



「後藤…煙草なんて吸うんだ」

「え…あ、あぁ。これか」


くしゃ、と携帯灰皿に煙草を押し付ける。
人前で吸うのは、他人に害が及ぶため控えている。
其処までのニコチン中毒ではないし、我慢も出来るからだ。



「よくそんなの吸えんな」

「あー…まぁ、眠気覚ましみたいなもんか」



はは、と笑いながら目を擦る。
これくらいで疲れるな、眠気よ消えろ。
眼前のこの男の方が、何倍も気疲れしている筈なんだ。顔にはこれっぽっちも出さないけど。




「…眠いの?」

「んー、まぁ、それ程でもないけど。な」



吸うのは、一人の時だけだ。
誰も居ない空間が寂しいわけではない。




「……なんとなく、吸ってるだけだよ」




真夜中、何時だって一人だ。
けれど達海の部屋から零れる光りを見る度に、何故か咽そうになる。

此処に閉じ込めているのは勝利への願望だろうか。
周囲からのプレッシャーだろうか。
後者だったら、俺も含まれているのだろうか。

本当は、彼は今イングランドに居たはずなんだ。契約もまだ終わっていなかった。
だから、だから本来ならば此処には居ないはずなんだ。
けれどそれを自分が連れてきた。お前が必要だと、心底思った。


(重荷に思われてはいないだろうか)

(咽る)


だから、それを煙の所為にしたいと、気付いたのは何時だったか。




「後藤」

「ん?」

「これ、やる」

「は? 、っわ」



達海が投げてきた物を思わずキャッチする。何か分からないまま。
何だよ急に、と達海に向き直ると彼は既に背中を向けていて、俺は首を傾げる。
がちゃ、扉を開ける。



「歳なんだから、んなの吸うな。あと、馬鹿みたいに色々考えんな」



あと、くさいし。
それだけ言い残して、達海はばたん! と勢いよく扉を閉めた。
台風みたいな奴だな、そう思いながら達海に投げられた物を見る。


あ。



「……コーラ味の飴なんて、美味いのかよ」




苦笑いしてみても、泣きそうになるのは堪えられるか難しかった。





(お前は、何度でも)

(俺を救うんだな)








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メシアの君臨
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