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□灰色エキセントリック
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*もしも達海が煙草を吸ってたら(椿+達海)
ふーっ。
吐くそれは白く、天に舞う。
地上に何一つの形跡など残さず、存在すら残さず。
それは消えていくものなのか解けていくものなのか、判断に困る。
ゆらゆら。
ゆっくりと無くなっていく。
ぼろぼろと何かが崩れるように、見えなくなる。
泣きそう。
涙なんて一つも見えない。
顔なんて何処も歪んでいない。
それなのにそう思う。
雰囲気? 息の吐き方? どうして?
思うのに理由は見当たらない。
全ての行動に躊躇してしまう。
「……かんとく」
「っ、椿!? 居るんなら居るって言えよ!」
ばか、と短く言ってから監督は煙草を地面に落として足で火を消す。
じゃりっ、音がして、明るみは消える。
あー吃驚した、と監督はバツが悪そうに髪をぐしゃぐしゃとかいた。
足元から煙は、もうない。
「消さなくても、良かったのに」
ぽそりと小声で本音が零れた。
あっ、と思って監督を見たが、特に何も気にしていなさそうだった。
その横顔は年下の俺が見ても幼いと感じる。
けれどその顔で、足を組んで煙草を吸っている監督が、どうにもこうにも似合っていて、声をかけるのを躊躇った。
だって、あまりにも様になっているから。
「ばかやろう。アスリートの前で吸えっかよ」
お前等は身体が全てなんだぞ、監督は不機嫌そうに言った。
だから初めて見たんだ、と俺は1人で納得する。
監督の腰掛けている隣には赤いジッポと赤い煙草の箱。
そうですね、貴方にメンソールなんて似合わない。
(なんとなくだけれど)
「……監督、吸うんスね」
「んー…まぁ、たまに。ね」
「身体に、悪」
悪いですよ、言おうと思ったのに、それは監督の言葉に被せられ、綺麗に遮断されてしまった。
こんな時ばかり、監督は早い。
「悪くてもいーんだよ。俺は、選手じゃないんだから」
自分で言っておいて、自分で傷ついてる癖に。
俺は思ったけど、ただ監督の横顔を眺めていた。
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ある種の自暴自棄。