□夕暮れとワルツを
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ピッチを駆ける貴方の姿は目に焼きついた。
焦がれるような衝動。
走り去れば風が舞う。
そして振り向いて笑うのだ。それはそれは幸せそうに。
悪戯っ子の少年みたいに。
歌うように、駆けていた。



(それはそれは、ほんとうに)




「貴方を見てるの、楽しかったよ」




まぁ、今も楽しいけど。
ジーノはワルツを弾きながら笑った。





「え〜? なにそれー。会った事あるっけ?」

「ううん。バッキーが見てたの横から見たんだ」

「あー、昔のビデオか何かか」

「だろうね」



懐かしいなぁ、俺は笑った。
昔の話。
過去の話。
たまに話せば花咲く話。
もう戻れない頃の話。



ワルツが流れる。それは踊りたくなる位の軽やかさ。
聞きたいと思ったら言った訳でもないのに弾いてくれる。
以心伝心っヤツ? 俺はほくそ笑んだ。




「ジーノ」

「ん?」

「俺だって、ピアノ弾いてるお前も、サッカーしてるお前も、見てんの楽しい」



どんな顔だって、ジーノは予想外の動きをしてくれる。
ここだが上手くいけばな、と思えばそれ以上の動きをしてくれる。
音も、思うよりも遥かに自分の心に浸っている。
音に酔いしてる、っていうのはこう言う事かな、なんて思う。




「でも守備してくれたらもっと楽しくなるかもー」

「じゃ、次の試合シュート決めたら御褒美頂戴?」

「俺の話聞いてた?」





ピアノの音を聞きつけて怒鳴りこんでくる有里が来るまで、俺はジーノが奏でる音にずっと耳を傾けてた。




(うるわし、あなた!)









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