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□ヘレボルスは微笑した
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カラカラカラカラ。
夏の香りと、風車が廻る音。
お天道様はどうも気紛れで、今日は酷く暑い。
暑いなァ。まったく。
達海は気紛れに空の下に出た事を今更後悔した。
かと言って何もしないで帰るのは洒落が無い。なにも無しに待っている椿に、土産の一つでも買っていってやらねばな。
何の気なく街を見れば、風鈴売り。あ、これはいい。
リン、と。透き通った音がする。
透明な硝子が随分綺麗に見えた。きっと、弟弟子は驚いて、その後、嬉しそうに笑うだろう。
達海はふと一つ微笑んで木枠を担ぐ男に声をかける。
「一つ頂戴」
「お。有難うよ兄ちゃん。どれが良い?」
「えー、どれも同じだろ」
「おいおい。よぉく見てくれよ」
「えー…あ、これ?」
達海が指差す。
それは綺麗な横丸ではなく、ほんの僅か、歪んでいた。
「ああ、それか。形が悪いから、それだったら安くしてやるよ。安心しな、音は良いからよ」
「本当? じゃあこれ頂戴」
ほらよ。
ちりん、
鳴る風鈴。
飾りっ気一つ無いそれに、どうしてだか、また笑った。
僅かな歪みにも、少しだけ笑う。
小銭を渡して、屋を目指す。
釣りはいらないと言えば、流石江戸の子だと笑われた。
別にそういう事じゃないんだけどね、達海も笑う。
片手には夏の音を鳴らす硝子。
風がふわりと奏でる。揺れる髪と、着物の裾。
「……あー…」
肌を撫でる風がやたら優しいものだから、思わず声を出してしまった。
そんな刹那だった。
ふわり。
何かが香る。御香の様な、そうじゃないような。
不思議な香り。
「髪結いさん」
溢された声に、あまり、覚えが無かった。
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