□わんこの杞憂
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「ちょっ、あ、あのっ、かんとくっ!」




ずんずんと自分の腕を掴んで廊下を突き進む英語教諭、兼、サッカー部の監督である達海に、椿は非常におろおろとしていた。
何回呼んでも振向いてくれない。
それだけならまだしも(いや、それはそれで傷付くが)、腕を、離してくれない。
ぎゅっと掴まれたそれは、少々痛い。



「あ、あのっ」



俺、何かしましたかー!?

そう言いたいのだがつかつかと歩くスピードは速く、舌を噛みそうだ。
うう。一体なにをしたと言うのだろう。
椿は泣きたい気分だった。



「(俺っ…何したんだろう…!)」



必死になって色々思い出してみるが、達海に何か怒らせるような事をしたか思い出せないし、そもそも思い当たる節はない。
図書委員でも自分はサボらないで仕事をこなしているし、今回の英語のテストは回答欄を間違えるだなんて事はしなかったし、点だって平均点よりだいぶ高かったと言うのに。
ぐるぐると悪い方にしか行かない思考を正そうとするものの、それが上手くいかないのが椿である。



「(えっと…な、なんでこんな事に…っ)」



部活に行こうと鞄を肩にかけた瞬間、白衣を身にまとった達海が教室に現れた。
あ、監督だ、と窪田がぼそりと漏らしたのを聞いて、椿もそちらを見た。
あれ? なんだろう?
そうぼんやり思っていたのだが、椿と目が合った瞬間、達海は不機嫌そうに唇を尖らせた。
えっ!?
椿が挙動不審になるのを気にしているのかいないのか、達海は椿の腕をむんずと掴んで、教室を後にしたのだ。



「か、かんとく…っ」

「俺」

「あっ、はい!?」

「怒ってるから」





思考ショートとはまさにこの事。







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