□私のアタラクシア
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舞う煙を目で追って、俺は特に何も思わず夜空を仰ぐ。
天の世界ってのは随分綺麗だね、俺は笑う。
分かる星は唯一つ。
北斗七星。
他の星はぐるぐる回るけど、あの星だけは動かないだろう? だから、分かる。
煙草の灰を灰皿に落とす。
小さなそれは、イングランドに居た時に買ったか、貰ったか。
物に執着が無いせいか思い出せない。薄情なもんだ、俺はまた笑う。





「達海」



聞き慣れた声に、俺は振り返る。
あらら、見つかっちゃった。




「よう。後藤」


手を振れば、見なれた苦笑いを返された。
ああ、そんな顔するなよ。後藤。





*






「またそんなもの吸って」


はぁ、これまた聞き慣れた、見なれた溜息。
お前をこんなに疲れさせてるのは直接的にも間接的にも俺だよね。分かってるよ。
肩を竦めて、煙草を吸う。
ふー、息を吐く。煙と一緒に。
後藤は嫌そうに目を細めた。



「そんな中毒になるほど吸ってないぜ?」

「そういう問題じゃないだろう」



むっとしたような後藤の声色を久々に聞いたもんだから、俺は少しばかりたじろぐ。
しかしそんなもの表面には出さない。
騙し合いをいっぱいやってきたんだから、これくらい簡単。




「身体に悪いって分かってるだろう? 吸うな、そんなの」

「直ぐに死ぬ訳じゃなんだからさぁ」

「お前…」




心配しすぎだよ、後藤は。
にこりと俺は笑う。
後藤はいつもそうだ。俺を心配し過ぎだよ。
俺だって、自己管理の少しは出来るよ。なぁ。



誰も居ない世界の中心で、俺は煙草を吹かす。
煙は周りをぐるぐると、ワルツみたいに、ね。
世界の中心は何処なんてよく言われてるけど、そんなの簡単。


自分が居る所だよ。
世界は球なんだから、そうだろうよ。


そんな世界の中心に、コイツはやってくる。
俺が嫌だって言っても、一人にしてくれって叫んでも、コイツはきっと来るんだ。
きっと、心配そうに小走りで。



想像して、少し笑った。









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