□夕暮れとワルツを
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彼が奏でる音が好きだ。


白い指を見ていると、本当にコイツがサッカーなんてやってるアスリートなんだろうかと疑う。
それほど似合う。様になる。
黒い大きなグラウンドピアノ。
ペダルを踏んだり、譜面を捲ったり。
うわあ、絵みたいだよ、ジーノ。









「楽しい? タッツミー」

「うん、まぁ」

「それは良かった」


ふ、とジーノは笑う。
ああズルイね、何やっても似合っちゃうね。
美形は得だよな。俺は机に顎をつけてジーノを見つめる。
たまーにある完全下校の日。
いつだかそれはジーノのピアノの鑑賞会になっていた。勿論、お客は俺だけだけど。
口約束もしていない。
ふとジーノのピアノの音が聞こえたから、俺もふらりとやってくるのだ。



「ピアノの音なんて、みーんな同じだと思ってたけどな」

「うん?」

「お前のピアノの音が、一番好きだ」

「それは光栄だな」



ありがとう、ジーノは柔らかく微笑む。
お世辞じゃないよ、本当にそう思っているんだ。
反響する一つ一つの音が丁寧で、零れ落ちることなく耳に入ってくる。
歌みたいに、それはもう綺麗に。





「なー、ジーノ」

「何だい?」




ぱらり、譜面を捲る音がする。
今度は何の曲だろうか、俺はこの時間に必ず襲ってくる睡魔の存在すら忘れている。




「音楽なんてきょーみ無かったけど、なんか、出てきたかも。お前の影響だよねー」


ある意味、しょーげきだよ、これ。


何気なくそう言うと、ぱっとジーノが此方を見る。
意外そうな、何て言うかそんな顔。
珍しい顔してるよーと俺は指摘した。
ほらほら、はやく弾いてよ。
次はワルツでも良いな。こんな日には、そんな曲が似合いそう。



「……僕はね、タッツミー」

「んあー?」

「貴方に衝撃を受けたよ」

「何をー?」



ぽろん、ピアノの音が鳴る。
ジーノの指が鍵盤を叩いて、和音を作ってく。
綺麗な音だよね、本当に。
まぁ不協和音だって好きだよ。合ってなさそうで、何処か歯車は合っている。




「フットボール、だよ」








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