□青い空とワルツと
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「お前…何でも出来んのね」


少し大きめの草臥れた白衣。締まりきっていない黒細いネクタイ。
あっちこっちにふわふわと跳ねている髪。
そんなルックスの教師、達海は普段だったら絶対立ち寄らない音楽室で、そんな事を呟いた。










本日は実に珍しい完全下校日。



部活も委員会も停止。簡単に言えば御休み日みたいなものだが、学校設備の検査やら点検やらもこの日に行う。
そこで生徒が残っていないか確認に教師たちは駆り出される。
達海はまあサボってビデオでも見るかと学生寮の一室に帰宅(達海は学生寮に住んでいるため)しようとした所を有里に見つかり、ネクタイを引っ張られながらの強制参加だ。


助けてくれと後藤に救いを求めるも、苦笑いを一つ返されただけだった。
そりゃあそうだよなぁ、と納得しながらも彼の肘を打った。

そして有里に、じゃあ私は2号館を見てきますから、達海さんは1号館を見てきて下さいね!
と言われ渋々階段を上っていた。


ここで学生寮にUターンしてしまえば良いのだが、連れ出される所を堺に見られているため、寮に戻ったら戻ったで堺、生徒に説教喰らいそうだ。
達海は村越始め様々な生徒からよく説教を喰らう。
最近は椿らへんにも説教と言うか、注意を受けるようになった。
しかもそれは甘い物食べ過ぎると身体に悪いですよ、とか身体を冷やすと風邪をひきますよだの自己管理の部分で、しかもそれが反論できないのが痛い所だ。
それに堺は厳しいし、それは流石になぁ、と欠伸を噛み殺した時だった。



「…お?」



ふ、とピアノの音がした。


あれ? 何だこれ。音楽教師は今日は居ないはずだ、と達海は首を傾げる。
教師、と判断したのは、音が素晴らしく響いていたからだ。
一旦に「巧い」と表現するのだけでは勿体無い。
美しく、旋律がしっかりとした、そんな音だった。


音楽は詳しくもないし、鑑賞などまったくと言っていいほどしない達海でも、それは分かった。


誰が弾いているのかと疑問に思い、がらりと音楽室の戸を開けると、そこには黒髪を揺らすジーノの姿があった。
大きな窓から零れ落ちる太陽の光りに照らされるその男は成程、王子だった。










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