*曲小説*
□moonlit bear
3ページ/7ページ
「ひっ…」
そこには「熊」が立っていた。
右腕にカゴを提げていて、その中にはガラスの小瓶らしきものが入っていた。
月の光だと思ったのは、この小瓶に反射したものだろう。
「返して。私の果実!」
イヴには、熊がそう言っている気がした。
「嫌よ。せっかく見つけたのよ、ようやく見つけたのよ!」
イヴは熊に向かって叫んだ。
誰にも、ダレニモ…
決して渡したりしたくない!
イヴは花咲く道を全力で駆け始めた。
両腕に果実を抱えながら。
「待て!」
熊が言った気がするが、イヴは走り続けた。
嫌よ、嫌よ。やっと見つけた私の愛しの「果実たち」だもの!
このまま帰れば、私もあの人も、きっと幸せになれるはずだから…
イヴは己の幸せと、そして愛するあの人との幸せを神に祈った。
ところがやはり、熊が怖い顔でイヴを追いかけてきた。
「返して!待って!」
そう言いながら、息を切らしている気がする。
ああ、お願い!許してください!
見逃してください!
分かっているわ。この果実があの熊の宝物だと…
私だってそれが宝物だったから!
でも、だからこそ、私はこの果実が欲しいのよ!