*曲小説*

□moonlit bear
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「ひっ…」


そこには「熊」が立っていた。
右腕にカゴを提げていて、その中にはガラスの小瓶らしきものが入っていた。
月の光だと思ったのは、この小瓶に反射したものだろう。


「返して。私の果実!」


イヴには、熊がそう言っている気がした。


「嫌よ。せっかく見つけたのよ、ようやく見つけたのよ!」


イヴは熊に向かって叫んだ。

誰にも、ダレニモ…
決して渡したりしたくない!

イヴは花咲く道を全力で駆け始めた。
両腕に果実を抱えながら。


「待て!」


熊が言った気がするが、イヴは走り続けた。
嫌よ、嫌よ。やっと見つけた私の愛しの「果実たち」だもの!

このまま帰れば、私もあの人も、きっと幸せになれるはずだから…

イヴは己の幸せと、そして愛するあの人との幸せを神に祈った。


ところがやはり、熊が怖い顔でイヴを追いかけてきた。


「返して!待って!」


そう言いながら、息を切らしている気がする。

ああ、お願い!許してください!
見逃してください!
分かっているわ。この果実があの熊の宝物だと…
私だってそれが宝物だったから!


でも、だからこそ、私はこの果実が欲しいのよ!
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