小説
□左右対称な国
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茶色く枯れた草の真ん中を突っ切るように、一筋の道が延びていた。
空は抜けるように青く、時々薄い雲がふわふわと浮かんでいるだけだった。
道の中央を、一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばない物だけを指す)が走っていた。
モトラドはそれほど速くもなく、しかし決して遅くはないスピードで、淡々と走り続けていた。
運転手は細い体躯をしているが、精悍な顔にある大きな目は、何者にも屈しない力強さを秘めていた。
「キノ、次はどんな国なの?」
モトラドが運転手に話し掛ける。
「まるで鏡に映ったような国だと聞いたよ、エルメス。」
キノと呼ばれた運転手は、モトラドのエルメスに答えた。
「ふうん、なかなか分かりにくいね。」
「そうだね。でもボクにとってはもっと重要なことがある。」
「ほう、何?」
「美味しくて安い食事があって、シャワーがあって、更に綺麗な白いシーツのベッドがあること!」
「…びんぼーしょー」
エルメスがそう呟く。
「あ、見えてきたんじゃない?」
「本当だね。…鏡に映ったような国っていうのは事実みたいだ。」
キノがそう言った。
その国の城壁の前には、巨大な人形のオブジェが立っていた。
門の左右を挟むように立つそれらは、まるで鏡に映したようにそっくりであった。
入国した二人は、オブジェを近くでよく見せてもらった。
「こんなに細かいのにそっくりだ。」
「すごいねー」
しばらくして二人は、門をくぐった。