short story

□season
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 あれから数ヶ月。
 季節はすっかり寒風吹きすさぶ冬。
 俺はともかく元々インドア派の彼女はますます外出を厭う様になった。
 そんな訳で、付き合って三ヶ月目の俺達は今日も今日とて家デートという奴だった。勿論、暖房の効いた俺のマンションの方で。
「臨也さんって女になりたいんですか?」
「んー、どうせだったら両性具有とかふたなりとかのが憧れるけれどね」
 なんで彼女がいきなりそんな事を聞いてきたのかは明らかだ。
 彼女は持ち込んだ自分のノートPCで、俺は普段使い用のデスクトップPCで、現在同じチャットルームで会話している。
 彼女のハンドルネームは"花子"。俺は"甘楽"。画面の中の"甘楽"は姦しく楽しそうに女言葉を振りかざし、"花子"に絡んでいる。
 何故同じ部屋でお互いの顔が見える位置にいるのにチャットで話してるのかというと、付き合い始めてからお互い内緒モードで話す事が増え、一ヶ月経った頃には文章量が本チャットを越える始末となってしまったからだ。
 チャットルームで二人きりの時ならともかく、他の人がいる時に内緒モードにかまけて本チャットのレスが遅くなるくらいならと、お互いへのメッセージは顔を見て口頭で話す様に自然となっていった。
 …なんて説明すると二人の関係を大切にするラブラブな恋人達の様に思われるだろうが、実際は俺達の内緒モードの内容など殆どダラーズ絡みで色気もへったくれもないのだが。
 ちなみに、電話しながらチャットという選択肢もあったのだが、苦学生の彼女にそんな長電話出来る余裕はないとつっぱねられた。…電話代くらい俺が出すと言ったのに。
「とりあえず普段の俺を連想しないキャラクターなら何でも良かったんだけどね。ちなみに“甘楽”は君にも他のメンバーにも好き勝手やってる奴に思われてるけれど、これでもそれなりに苦労しているんだよ?口癖とか俺だと勘づかれないよう普段の生活をチャットルームで出さない様にとかさ」
 その甲斐あって、未だセルティにも杏里ちゃんにも俺イコール甘楽とバレてはいない訳だが。
 最初はダラーズの創始者に近付く為にこのチャットルームを作った。いわばここは最初帝人君の為だけの箱庭だった。
 そこにセルティを呼んだのは俺の気まぐれと非日常好きの帝人君へのサービス。チャット上でこれ程までに人間らしい"セットン"が現実では首なしライダーなのだといつか教えたらどんな反応をするのか楽しみだった。
 が、偶然に似た必然から"罪歌"が現れ、ならばと"バキュラ"を引き込んだら、いつの間にか池袋内の様々な人間関係を観察する為の重要ツールとなっていた。
 彼女の為にと作った場所だからだろうか。このチャットは竜ヶ峰帝人に似ている。
 表向きは和やかで安定した、ともすると少し退屈な場所の様に思えるのに、その裏では色んなものを内包し、少し掘り下げればずるずると色んなものを引き連れてくる。
 …少しでも油断すれば、こちらまで取り込まれそうな得体のしれないものを。
 そういえば、別れるのが当然の帰結だろうと思っていた矢霧誠司と張間美香をあんな歪んだ形で結びつけたのもこの子だったっけ。
「臨也さんは客観的に見れば“男”である自身をこれでもかってくらい武器にして相当愉しんでいる様に見えますけど。それなのに男であるだけじゃ不満なんですか?」
「…棘を感じる言い方だなぁ。ま、強いて言えば不満だね。片っぽの性しか有してないと、もう片っぽの性を十分に愛せないってのがやはり世の道理だろう?同性愛の理解が広がったって、結局の所ノンケのが数としては多い訳だし」
 俺の取り巻きに女の子が多いのはそういう理由もある。
 俺が決してなる事が出来ない“女の子”というステータスを持った様々な彼女らに俺の代わりを務めてもらう為に。…言葉を選ばずはっきり言えば、俺が女性に対してする様に彼女達に男を相手にして籠絡して貰う為に。
 沙樹と紀田君がいい例だ。
 ま、彼女達を使わなくても時間を掛けさえすれば相手がノンケの男だろうが大抵は落とす自信があるけれど、紀田君は警戒心強くて面倒くさそうだったし。
 その点帝人君が女の子だったのは僥倖だった。
 俺が男で彼女が女だった為に、俺の駒の最右翼候補である彼女を何の障害もなく俺自身の手で籠絡する事が出来た。
 もし帝人君が男だった場合、紀田君と同じ様に俺の手駒の少女達を使って籠絡した事だろう。…いや、女である今でさえ友人である園原杏里に憧れと庇護欲を抱いている帝人君だ。もし男だったなら園原杏里に恋心を抱くなんていう面白い状況になっていたかもしれない。それは俺の手駒の女の子を使って籠絡するより面白そうな状況だ。と、話が脱線した。
 …ま、非日常の申し子である彼女ならもし俺達が男同士だったとしても結構簡単に落ちてくれたかもしれないが。その逆、俺達が女同士だったとしてもまた然り。
 …小説の様に平行世界が存在するとして、俺達が同性同士なんていう世界があったのなら見てみたかったかもしれない。



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