short story

□一つの始まり、一つの終わり
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――あ、平和島先輩。
ふと見た窓の外に、一方的に知った顔を見つけて思わず立ち止まる。
園原さんが憧れている人物。並外れた身体能力の持ち主で、物凄く沸点が低く、敵も多い。
正臣なんかは『近づくな、憧れるだけにしておけよ?』なんて園原さんに口を酸っぱくして言っているけれど、きっとそんな心配する事もないんだろうとも思う。
本当に純粋に憧れてるだけで、そこにやましい想いなんか何もないんだろう。だから憧れていると素直に言えるんだ。
…僕はやましい。だから言えない。
折原臨也先輩。平和島先輩の天敵で池袋初日と来神高校入学の時に正臣から散々警告されていた人物だ。
…なのに、それでも僕は、それでもあの人の事が。
近づくなという忠告を無視してこんな想いを抱いている事も、その事を正臣達に言えない事も、こんなにやましくて仕方ない。なのにどうしてもやめられない。
本当にごめんね正臣。でも心配する事なんか何もないから。
だって最初っから諦めている。
そりゃ僕も恋する乙女なのであの人に好きになってもらえたら、とか、あの人と付き合ったらどんな感じだろう、とか日常生活の思考の合間や眠りにつく前のとりとめのない空想なんかでぼんやり妄想してしまったりするけれど、そんな時は決まって自己嫌悪と羞恥心に襲われていたたまれなくなる。そのくらい有り得なくて分不相応な事だと自覚してる。
でもこんなに人を好きになったのなんて初めてだから、きっと僕が大人になって別の恋に落ちたとしても、それでも何度もこの恋を思い出すんだろう。
なら告白なんてしない。近付こうなんて思わない。この恋が、思い出すたびに痛みや悲しみを伴うくらいならこのままで。
折原先輩どころか、正臣にも園原さんにも誰にも言わない。
正真正銘僕の中だけで育って僕の中だけで完結する想い。きっとこれも一つの恋の形だ。
だから今だけは許して欲しい。あの人を好きでいる事を。


その瞬間、僕の一方的な片思いは終わり、彼の恋が始まったのだと僕は彼に告げた。



fin.
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