short story

□一つの始まり、一つの終わり
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彼女の事は前から知っていた。まぁ、全校生徒の顔と名前と最低限のプロフィールは頭の中に入っていたのだけれど、取り分け彼女は印象深かった。特に名前と本人のギャップが。
田舎から上京してきて今年来神に入学した竜ヶ峰帝人ちゃん。俺の一個下。
物々しい名前とは裏腹に女の子で、しかも同年代の女の子達と比べ身長も低いしどこもかしこも本当に細い。下手すれば大人っぽい小学生に見えなくもない。
興味深かったのが俺が一年前にちょっと色々遊んでしまった紀田君とは幼馴染らしいという事だった。それだけで場合によっちゃあ色んな遊び方を見つけられるかもしれないとちょっとだけ注目していた。
そんな訳で、顔も名前も前から知っていた。…なのに、それでもその瞬間は一目惚れとしか言い様がなかった。
梅雨のある日、彼女は雨の降る外の校庭を二階の廊下から眺めていた。
たまたま帰る時間が彼女と被って同じ廊下を歩いていた俺は、あ、と一方的に見知った彼女の顔を何の気なしに目を留めた瞬間、頭が真っ白になった。
童顔なのに窓をぼうっと眺めてる横顔は意外と大人びているとか、
切なげに伏せられた睫が意外に長いとか、
頬の曲線が滑らかだとか、

…触れてみたい、とか、

そんな、そんな簡単な事であっさり落ちてしまった。
彼女が窓から目を離し昇降口に向かう為に俺に背を向けるまで、時間に直せばほんの数秒の事だったろう。
けれど俺は恋をしたし、恋に落ちた自分を自覚した。
だからこそ暫くその余韻に浸っていたいという欲求に蓋をし、今しなければいけない事をする。即ち彼女の視線の先を追うという事を。
大人びた表情、切なげに伏せられた睫、あの時の彼女には紀田くんや園原さんといる時には見せた事のない艶があった。

――あんな、明らかに恋している表情を一体誰に向けていた?

彼女の視線を脳内でリプレイし、あの窓からあの視線の角度で見れるのはどの辺りだろうと計算して見た先には、
「……ッ」
見たくもなかった見慣れた金髪。
奥歯ががりっと音を立てた。
恋愛は自由だ。
例え同性を好きになろうが、人間外を愛そうが、俺はそれをありのままに受け止め、俺の愛を以って観察しよう。
けれど、俺の好きになった子が、俺の最も嫌いな奴に恋をしているなんて自由まで認めた覚えはない。



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