★中・短編★

□休養日
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「今日から、部活に戻っていいよ」
 診断が終わった医者の一言に、タカオはパッと顔を輝かせた。
「本当ですか?!」
「ただし、無理はしない事。前にも言ったが君の肩は今、ガラスのように壊れやすいんだから」
「…はい」
「ところで、答えは出たのかな?」
 その言葉に、はっと顔をあげたものの、先生の目を直視出来ず俯く。そんな俺に、先生は優しく声をかけてくれた。
「焦らずに、ゆっくり考えなさい。」
「はい…」
「お大事に」
「有難うございました」
 会計を済ませて外に出ると、久しぶりの青空が目に飛び込んだ。眩しさに、思わず手で廂を作る。
「いい天気だな…」
 外の天気とは裏腹に、心の中は曇天だった。
 川北との練習試合から、数日がたっていた。
 その日肩を痛めた俺は、担ぎ込まれた先の、お医者さんから示された二者択一の選択を、(田所さん以外)誰にも内緒の秘め事にしていた。
 吊されていた包帯は、今はもうない。それはそれで嬉しいが…。
「どうしよう…」
「谷口?」
 呼ばれて、はっと我に返る。次いで、耳慣れたその声に思わず振り返った。
「相木さん!」
 そこにかつて世話になった元サッカー部主将が立っていた。
「どうしたんです、こんな所で」
「こんな所って…ここは近所でも評判のスポーツ医学の先生がいるんだぜ?」
「相木さん、どこか痛めたんですか?」
 さっと顔色が替わるのに、相木は苦笑した。
「お前だって、どこか痛めたからここにいるんだろう?」
「……! 僕は…」
 言ったきり。
俯く彼の姿が、かつて自分の申し出を一度は断った姿とダブった。
(何かあるな…?)
「谷口、ちょっと時間いいか?」
「あ、はい。」

 ―――――――――

 誘い出した先は、近くの川原。ここなら、誰かに聴かれる恐れもない。
 戸惑い気味に付いてきた谷口を振り返り、俺は単刀直入に切り込んだ。
「お前、何か悩んでるな?」
 瞬間、震えた肩にやはりと思う。目の前で視線から逃げる、その様子には覚えがある。
「逃げるなよ、谷口」
「別に逃げてなんか…」
「だったら、何で俺の視線から逃げる」
 自覚していなかったのだろう。はっと顔が跳ね上がった。
「本当に、逃げてるつもりは…」
 平静を装うつもりで、声が、瞳が揺れている。
逃げていると言うよりも、むしろ、これは…。
  怯えて、いる?
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