★中・短編★
□ALWAYS
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俺と百瀬は、最初から仲がよかった訳じゃあない。
最初の頃は、互いを敬遠していたように思う。
アイツがどう思っていたか知らないが、俺はアイツは苦手だった。
何故なら、アイツは(半年間外野だったが)一年からリリーフとはいえレギュラー。俺はと言えば、ベンチにも入れない補欠。
実力からすれば仕方がないのだが、当然面白くなかった。
一年ながらレギュラーになったアイツが、試合や練習でつまらなさそうに投げるのを見てれば尚更だ。
正直、気に食わない奴だった。
二年になると、俺は三年の土屋さんのアクシデントへの備えとはいえ、念願のレギュラー。
三割以上打つ俺も、五割を打つ土屋さんには適わない。同じキャッチャーながら、経験値が断然違う。
しかし捕手が変わっても、アイツの投げる姿は相変わらずだった。
それが、尚更俺をイラつかせた。
そんなある日。
創立記念日か何かで、部活が休みになった。しんと静まり返った誰もいないグラウンドで。
アイツが、投げていた。
誰もいないのをいい事に、どこから待ってきたのか的代わりにマットを立て掛け、バケツ一杯のボールを傍にし、マウンドから嬉々として投げている。
その、速度に。
俺は息を飲んだ。
これまで一度も見た事のない……、いや見せていない、アイツの本当の全力投球。
音を立てて食い込む度、その反動かマットが揺らぐその、球威。
初め唖然として、次いで猛烈に腹が立ってきた。
確かに、あれだけの球威と速度なら、捕れる捕手も限られてくるだろうがそれにしても。
(最初っから、手加減してたってかっ?!)
舐めてんじゃねぇぞ!!
対抗意識が音を立てて燃え上がった。アイツが、本当の力を出さないのなら、出させてやるまでだ!!
そうして月日が流れて、夏。三年生達最後の大会で、アクシデントから土屋さんが負傷退場。変わった俺は焦がれていたあのポジションにつく事になる。
その際、マウンドで不機嫌そうなアイツに足音荒く歩み寄った。
「舐めた真似、してんじゃねぇぞ」
「ああ?」
見上げるように俺を見る、不貞腐れたような顔が怪訝そうに歪んだ。俺は襟首を掴んで絞め上げたいのをぐっとこらえて、
「本気で投げろ」
静かだが有無を言わせぬ響きが口調に出た。
そのまま睨み付ける俺の視線を、逃げるように避ける奴の顎を掴んで、ぐいっとこちらに向かせる。負けん気の強い奴は、帽子の下で白く双眸を光らせた。
「投げろって言ってるんだよ」
「…」
「お前の思惑なんか知ったこっちゃねぇが、一度も本気で投げてねぇクセに、舐めてんじゃねぇよ」
「…」
「ここでちゃんと投げないなら、俺は生涯お前を軽蔑してやる」
「…どうなっても知らねぇぞ」
ほんの少し、眼尻をきつくした奴の言を、俺はふんっと鼻で笑った。
「やれるもんならやってみろ」
この挑発に、ますます双眸の光を強くした奴に背を向けて、俺は捕手の定位置についた。
ナインに声を掛け、マスクを被って座った俺を睨み付けて、奴は大きく振りかぶった。
ゆったりとしたモーション。次いで、全身のエネルギーを爆発させたかのような直球が、音を立ててホームベースを突っ切る。内角ぎりぎりのそれに、ヒッと打者の腰が引けた。
瞬間。
ズバンッと、音を立ててミットが揺れた。
微動だにせず受けとめて見せた俺に、奴の表情が変わった。同じ所に2球、要求どおりの球を軽々と受けてやる。へぇ、と唇が動いた。やるじゃんと言いたげな表情に、返球しながらどうだと笑ってやる。