★中・短編★
□★引き替えたモノ★
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青葉との再試合。
俺達墨二は体力、気力共に限界まで戦った。キャプテンの谷口さんは、折れた指を酷使してまで投げ切った、文字どおりの激戦。
俺達は、満身創痍の有様ながらも勝利した。
戻って、まず驚いたのが街の景観。
あちこちにのぼりや横断幕が張られて、すっかりお祭り騒ぎである。
谷口さんはその足で真っすぐに医者に向かった。
背中が、付き添いはいらないと雄弁に語っていた。
心配だったが、主将命令は絶対だ。俺達は黙ってその後ろ姿を見送った。
――― 翌日。
谷口さんの右手人差し指には、分厚い包帯がまかれていた。
ギブスをしているんだ、とは本人談。
笑顔が見える所を見ると、大事にはいたらなかったようで。
俺はホッとした。
キャプテンが不慣れなピッチャーをする事になった一番最初の要因は、俺の弱音だ。
あんな事言わなけりゃ、骨折したキャプテンに無理をさせる事もなかった。
だから、心底安心した。
……しばらくして。
包帯を取ったキャプテンが練習に復帰した。
と言っても、もっぱらノックが中心で。
不思議に思って聞いてみると、
「引退する三年が、グラウンドで練習しても仕方ないだろ」
と言う返事。
確かに他の三年は、滅多に練習に出てこない。
キャプテンがこうして練習に来るのは、まだ後継者を決めていないからだろう。
そう思っていた。
でも。
その包帯をとった、右手人差し指が殆ど全く曲がらないのに気付いたのは、いつだったのか。
何とも言えない目で、谷口さんを見る丸井さんの視線に、気が付いたのはいつだったか。
―――まさか。
∽∽∽∽∽∽∽∽
「やあ、イガラシじゃないか。どうしたんだ、こんなところで?」
医者からの帰り道、谷口は驚いた。
荒川にかかる橋のたもとで、イガラシが制服姿で立っていたからだ。
「お前の家、こっちの方角じゃないだろう?」
笑顔で言いながら。
歩み寄る彼へイガラシは何かを放った。咄嗟に受けとめると、それは見慣れた軟式ボール。
不可解な行動に、彼は眉をひそめた。
「イガラシ?」
「投げてよこして下さいよ、キャプテン」
言葉に、はっとなる。
数歩前に立つ後輩の、向けられた目は真剣だ。
「どうしたんだ、急に?」
でも、投げない。
持ったままゆっくりとそちらへ行くと、その同じ距離を、イガラシは後退りする。
「おいおい、そんなんじゃ渡せないじゃないか」
苦笑いするキャプテンに、俺は苛立った。
「ここまで、投げて見せて下さいよ。キャプテン」
俺の再三の要求に、困ったなぁと言う顔をして、手の内のボールを見る。
一瞬、瞳に奇妙な苦痛がよぎるのを、俺は見逃さなかった。
「じゃ、いくぞ?」
いつものようにモーションを起こし、ボールを投げようとして……、
ポトリ、と。
それは地面に落ちた。
……やっぱり。