短編小説

□さむい日には
2ページ/5ページ







電車を乗り継いで数分。


大学を出てから向かった先は賑やかな繁華街。


鍋の材料を買う前に、目的のひとつであるスイーツ専門店に二人で足を運んでいる途中だった。



ルークは思わずにやにやしそうになる口元を、紺色のマフラーでこっそりと隠す。


甘いものは好きだし、食えて嬉しい。

けど、それ以上に甘いものが大好きなのはユーリの方である。


だからユーリも密かに嬉々としてるのが何となく分かって、それが妙に嬉しい。



「なあなあ、ユーリ。そのケーキ屋って遠いのか?」


「いや?歩いて15分ぐらいじゃね」


そっかあ、と浮かれた返事をしながらユーリの背中を追う。

そのケーキ屋さんとやらはユーリが友達に教えてもらったオススメの店らしい。


楽しみだなあなんて思いつつ、ルークは冷えた両手をポケットに突っ込んだ。


かじかんだ手は、なかなかあったまらない。



(…それにしても…、)


人が半端なく多い。


平日でもこれだけの人が行き交うのは、流石都会の主要駅だからだろう。


ルークは普段、地元近隣からあまり出ないので
これだけの人ごみの中をいつもの速度で歩くのは難しい。


なのにユーリはひょいひょいと人ごみを避けて、スムーズに先へ進んでいる。



(こ、これも身長の差か…っ?)



長身の弟を若干ひがみながら、ルークは必死に人波をかき分ける。

こんな所ではぐれたら洒落にならない。


ユーリを見失わないように…と思っていると

目の前に迫ってきている人に気づかなかった。



「ぅわっ!」



ドスンと思いっきりぶつかってから、ルークは慌てて顔を上げる。

するとそこには、スーツ姿の中年男性が一人。



「す、すみませんっ」



ぶつけた鼻を押さえながらぺこっと会釈する。

それじゃ、と男の横を通り過ぎようとしたが、何故か腕を掴まれ、引き止められてしまった。



「都会慣れてないの?」


「…?」


「おじさん今ちょっと時間あるんだ。よかったらお茶でも飲む?」



お茶?


(え?まさか、俺に言ってんじゃねぇよな)



だが、明らかに自分にそそがれているであろう男の目線。

何より男の手がルークを掴んで離さない。



「実はさ、この近くに美味しいって評判の店があるんだ。奢るからさ、ね?」


(ま じ で か !!)



まさか人の良さそうなサラリーマンらしき男から、お茶の誘いを受けるとは夢にも思っていなかった。

顔が引きつり、ダラダラと変な汗が出始める。


そしてこんな時に限ってうまく口が回らない。



「いや、あの。人と一緒だから……」



ギクシャクしながらも、対処しようと口を開く。


そこまで言ったところで、後ろからぐいっと腕を引かれた。




.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ