短編小説

□さむい日には
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※弟ユーリ×兄ルーク









ユーリは大学の正門をくぐり、近くの手すりに腰かける。


本日開校記念日で学校が休みだったユーリは、ルークが通う大学へと来ていた。

高校生のユーリにとって大学というのは物珍しい。


あれこれ見渡した後、思い出したようにポケットから携帯を取り出す。



(メール送信…っと)



今日は午前中で講義が終わるんだーと言っていたルーク。

その兄に、ユーリは自分の現在地をメールで知らせる。


すると

数分もしないうちに、笑顔全開のルークが向こうからすっ飛んで来るのが見えた。

「うりゃ!」と、勢いに任せて突っ込んでくるのを、ユーリは慌てて受け止める。



「…あんたは牛か?」


「へへっ、ユーリが大学にいるって思ったら何かテンションあがった!」



にこにこっと上機嫌のルークの顔を、ユーリはおや?っと覗き込む。


白い吐息に、真っ赤な鼻先。


そういえば、家を出る前に見た天気予報で「今日は冷え込む一日になるでしょう」と言っていたのを思い出す。


なのにルークが着ているのは防寒なんてちっとも考えていない薄手のもの。

その点、ユーリはしっかりと厚手のダウンを着込んでいる。



「さむ…!」



言いつつ、ユーリから熱を奪おうとルークがもぞもぞとすり寄ってくる。


ユーリはそれを、呆れ顔で引き剥がした。



「あんたな、公衆の面前でそれはどうよ」


「いやだって寒いし、ユーリあったけえし?」


「だったらせめてマフラーぐらい巻いて来いよな」


「しょうがねえじゃん、朝時間なかったんだ!」



ぶぅと、その赤い頬が膨らんだ。

ルークは離れるどころか、手すりに腰かけるユーリの足の間に「よいしょ」と体をねじこむ。


ユーリの胸に顔を埋めては、はふはふと寒そうに息を吐き出した。


はぁと、ユーリの口から漏れる長い溜息。

するとすぐさま、翡翠の瞳にじろりと睨まれた。


むぅと唇を尖らせた姿は、とてもじゃないが年上には見えない。



(あー、もう…)



ユーリは諦めたように、凍えるルークの腰に手を回した。


当然、周囲の視線が痛いがそこはもうスルーで。



「ユーリ、今日鍋にしようぜ!肉たっぷりの」



そんな視線すら気付いていないのか、ルークはにっと笑いながら首を傾げる。



「鍋かーいいな」


「あ!あと無性に甘いもんも食いたい」



ケーキケーキ!とぬくぬくしながらはしゃぐルークに、ユーリも思わず顔が弛んだ。


こんな風に自分から甘えてくるルークはなかなか珍しい。

はいはいと苦笑しながら、ユーリは朱い髪をくしゃりと撫でた。



「んじゃ買い物して帰りますか」


「おう!」



何はともあれ、この状態では動こうにも動けない。


ユーリは仕方なしに自分がしていたマフラーを、未だに寒さで震えているルークの首にグルグルと巻いてやった。



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