短編小説

□チルドレン
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目が覚めると見知らぬ部屋のベッドに寝かされていた。


ぼんやりとした頭で辺りを見渡す。

荷物が少ないこの殺風景な部屋は、宿屋だろうか。


辺りはすでに薄暗く、月明かりを頼りにルークは手の平をゆっくりと動かした。



「…だるい…」



でも、あの焼けるような痛みはもう感じなかった。

…エステルが癒してくれたんだろうか。

後でお礼を言わなくちゃ、そう思ったと同時に部屋のドアが開いた。



「ユーリ、」



その声にユーリの目が見開らかれるがそれはほんの一瞬で、すぐに無表情に変わる。

ユーリは無言で歩み寄り、ベッドの側にあるイスに乱暴に座った。


シン、と重い沈黙。


その圧力に先に負けたのはルークで、恐る恐る口を開いた。



「…ここ、宿屋?」



何か喋ろうと口を開くと出てきたのはそんなことだった。

ああ、とユーリの返事も短く終わる。



「えっと…、あの後どうなったんだ?みんなは?」



ちゃんと無事だろうか。

怪我はしていないだろうか。

あの時意識がぶっ飛んで、みんなの無事を確認する余裕はなかった。


ルークの問いに、ユーリは淡々と答える。



「重症だ」


「え…!!?」



だるさも忘れて思わずがばっと跳ね起きた。

焦燥と不安がない混じったような目で、おろおろとユーリを見つめる。



「みんな心配してた、お前を」


「…………へ…?」


「特にリタとエステルは相当ヘコんでたな。エステルに至っては半べそでベッドにかじりついてた」


「…ちょっ、ちょっと待った」



話が見えない。

というか予想とは全く別の答えが返って来て少々混乱する。

ルークは額を押さえつつ絡まった思考を整理した。



「あの、重症って…?」


「んなの、あいつらの意気消沈度合いのことに決まってんだろ。…飯ん時なんかまるでお通夜だ」


「えっと、じゃあ、誰かが怪我したわけじゃ…」


「ねえよ」



はっきりと断言したユーリに、くたりとベッドの背もたれにもたれかかった。



(なんだ…、)


「…よかった…」



ほっと息をつく。

安心するとまた反動で頭がぼぅとしてきた。


しかしその反応に、ユーリの顔が険しくなる。



「…よくねえだろ」


「…?、…なんで?」



目を瞬いて首を傾げる。



…そりゃ心配させてしまったことは申し訳なく思うが。


リタもエステルも、みんな怪我がなくて万々歳だ。

見たところユーリにも怪我はないし…。


心底わからないとルークが訝しんだ顔をすれば、ユーリから沈痛な溜息が溢れる。



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