短編小説

□チルドレン
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巨大な魔物との戦闘。


数は4体。

図体がデカい割りに動きが素早い魔物相手に、ルークたちは苦戦していた。


後衛の援護を受けながら、前衛であるルークとユーリはそれぞれ別々の敵を狙い、交戦する。


魔物の攻撃をよけつつ、ルークは隙を見てデカい胴体に思いっきり剣を振りおろした。


だが鱗のような皮膚は想像以上に固く、致命傷には至らない。



「くそっ!!」



一度間合いを取るために、ルークは素早く一歩後退する。

その時、ドンと肩が何かとぶつかった。


「わっ」


驚いて振り向くと、見慣れた横顔があった。

凛とした瞳で敵を見据えるユーリ。



「正面からの攻略はちっとキツそーだな」



キツそーと言いながらも、ユーリの表情にはどこか余裕がある。

やっぱり戦闘狂ともなればこんな状況ですら楽しんでしまうのだろうか。



「頑丈なヤツだなぁっ。固すぎて腕がびりびりしてきた」


「何なら下がっててもいいんだぜ?」


「じょーだん!」



ルークがムキになって返せば「はいはい」と流される。

その反応にむぅっとしながらも、ルークは再び視線を魔物に向けた。


敵の頑丈な、胴体。

なら、ただ闇雲に突っ込んで行くだけではダメだ。


術で相手を弱らせて、それから怯んだところを叩くしかない。


幸いにもリタやエステルが詠唱を始めてくれている。


そう断を下すなり、ルークは地面を蹴った。


詠唱が終るまでせめて足止めしなければと、敵の背後に素早く回り、技を繰り出す。


―――その時、



「!!」



視界の端に写った、一匹の魔物。

その魔物が、詠唱中だった後衛の背後に回った。



(―――ま、ずい…!!!)



リタやエステルは

まだ、気付いていない。



魔物の、むき出しの鋭い爪が勢いよく振り上げられる。



「リタ!エステル!」



ルークは叫ぶなり、目の前の魔物との戦いを放棄した。

放たれたように身をひるがえし、一気にその場から駆け出す。



間に合え、と心で叫んだ。



だん、と踏み込みとっさに二人を庇う。

ぐさり、と爪が肉を裂く感覚。


右手を犠牲にした。


それに一瞬顔を歪めるが、振り向きざまに技を繰り出し一匹を吹っ飛ばす。


しかし、背後から近づくもう一匹の対処が間に合わない。


容赦ない攻撃に、グワリと視界がぶれた。


にぶい音と共に、吹き飛ぶルークの体。



「ルーク…ッ!!!」



エステルの叫ぶような悲鳴が聞こえる。

受け身を取る暇もなく、その体は地面に叩き付けられた。



朦朧とする意識の中、仲間が最後の敵を仕留めるのが見える。



(あつい、…いた、い)



珍しく焦りを含んだ表情で駆け寄って来る、ユーリの姿。



(よかった…ユーリ、無事だ…)



ほっと息をつく。

徐々に重くなる瞼にあらがう力もなく、ルークは意識を手放した。




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