短編小説


□パセリの安息
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季節は、春。


本日、私立学園高等部では入学式が行われていた。


その式典も無事に終了し、真新しい制服を着た新入生達が一斉に体育館から解放される。



そんな中、一人の生徒が不安気に辺りを見渡していた。



「あれ?アッシュの奴どこ行ったんだろ」



先に行っちゃったのかな?と、ルークは双子の兄――アッシュの姿をきょろきょろと探す。



どうやらこの人混みではぐれてしまったらしい。



何でも出来て頼りになるアッシュに比べて、全てが平均並のルーク。


少々人見知りな面もあるため、周りは知らない人ばかりのこの環境はルークにとって不安でしかなかった。



困ったようにうろうろと徘徊していると、
何やら体育館の入り口に人だかりが出来ているのに気付く。


「…何だろ?何かあんのかな?」


不思議に思い足を向けたルークは、入り口に着くなり目をぎょっとさせた。



「アッシュ君!高等部ではぜひとも弓道部に!」


「何言ってんだ、こいつは剣道部に入るに決まってるだろうが!」



入り口に待ち受けていたのは、部活勧誘のために集結した先輩方。


部の実績が上がれば、予算が増えるからだろうか。


優秀な人材を押さえるために、みんな目がマジだった。


「うわぁ、…アッシュの奴大丈夫かな」


みんなの殺気立ったオーラがひしひしと伝わってきて、ルークは内心はらはらしてしまう。



―――アッシュは剣道で全国大会に出場するほどの強者だ。


加えて入学試験ではトップクラスに入ったとなれば、文化部も運動部も放ってはおかないのだろう。



「どけ!俺は高等部で部活に入る気はない!」



鬼の形相で怒鳴り散らすアッシュに、そこを何とか!と、必死に詰め寄る先輩達。


アッシュはもみくちゃにされながらも、苛立ちを隠しもせず人混みを抜け出していった。


その顔はかなり不機嫌そうである。



ルークはその場で立ち尽くしたまま、
そう言えば生徒会に専念する、と言っていた兄の言葉をとぼんやり思い出す。



ぼやっとしていると、そんなルークに気付いた空手部部長が、何故か必死の形相でこちらにすっ飛んできた。



「君!確かアッシュ君の弟だよな?
頼む!何とか君から空手部に入るように説得してくれないか!!?」



突然の矛先に、ルークは内心で、ええぇ!!!と、悲鳴を上げる。


性格は真逆だが、見た目はそっくりの二人。


双子という肩書きが、今のルークには仇になった。


俺のバカ…!こんなことならさっさと逃げておくんだった!
と半べそ状態で後悔しても、後の祭りである。



そんなルークの心境もお構いなしに、
他の部長たちもギラリと目の色を変えて一斉にルークを取り囲んできた。



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