短編小説


□『かくりつ。』
1ページ/6ページ




なんで、どうして、よりによってお前なんだ。











「あの…私、ずっと前からフレン君のこと、好きだったの…!」



放課後。

新任教師であるルークは、ちょっくら調べものをしようと図書室に来ていた。


テスト期間でもない図書室には、
学校に残ってまで真面目に勉強しようなどという素敵な思考の生徒は残念ながら皆無で。


しかも、いい具合に日も沈み欠けたこの時間帯なら尚更、人気はない。


確かにここなら、告白スポットとしては最適だよなぁとぼんやり思った。


だがしかし、


(図書室を利用するのは何も生徒だけとは限りませんよー?)


おそらく二人は自分がいることに気付いていない。


ルークは、仕方なしに息を殺して物陰に隠れた。


告白されているのはルークが受け持つクラスの学級委員長、フレン・シーフォ。


自分のよく知る生徒が告白されてる現場なんて、
はっきり言って気まずいし、恥ずかしいし、何より申し訳ない。


だからせめて音を出さないようにゆっくりとその場にしゃがみ込み、時が過ぎるのを待った。


「気持ちは嬉しいけど…」


「や、やっぱり、付き合ってる人がいる、から…?」


「えっと、そういう訳では」


フレンの言葉に、女子生徒は希望を見つけたように彼に詰め寄った。


「だったら…っ」


「…今は誰とも付き合う気はないんだ」


フレンの諭すような言葉に、その女子は口をつぐむ。

終わったか、とルークがほっと息をついた瞬間。




「じゃあ、せめてキスして欲しい」



「………え」



でたらめな大胆発言が来た。



(え、ええぇえええッ!!?)

フレンを差し置いて、内心で絶叫するルーク。


(ス、スゲー、最近の女の子ってこんなに大胆なのか…っ)



「一度だけしてくれたらきっぱり諦める!もうつきまとったりしないって約束するから!」



なかなか引き下がらない女子生徒と、まさかのカウンター攻撃に固まるフレン。


さぞかし前を必死で防御していたのに、後ろからぶん殴られたような気分だろう。


そんな二人のやり取りにハラハラし始めるルーク。


その間にも、フレンはじりじりと追い詰められていった。


(…ごめん、ごめんよ、積極的で勇気ある名前も知らない女子生徒…!!)


やっぱり困っているフレンを放っておけず、念仏のように彼女に謝罪する。


それから近くにあった脚立を、ルークはガッと蹴飛ばした。


ガッシャーン!!と音を立てて倒れた脚立に、その二人はようやくこの場にいるのが二人だけではないことに気づく。


勇気ある女子生徒といっても、そこは流石に女の子。


きゃあ!という可愛らしい悲鳴を上げた後、
我に返ったように「ご、ごめんなさいっ」とフレンに謝罪を残し、バタバタと図書室を後にした。


図書室に再び静けさが戻る。


(よし。後はシーフォが何事もなかったようにこの場を去ってくれれば…)


「…ファブレ、先生…?」


……なんて期待した俺がバカでした。


フレンは物陰にしゃんで隠れていたルークをあっさり見つけると、驚きに目を丸くさせた。


.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ