短編小説


□はつこい。
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どうしても手に入れたかった。


くるくると変わるその感情と表情は、なぜか不思議と目が離せない。


あんたの映す世界が、俺しか見えなくなればいいのに。












こけッ。


「のわッ!?」


ビタンッ!


――――バサバサバサ。





しーん。




間抜けな声と効果音に、思わず振り返ってしまった。


廊下の向こう側には、うつ伏せですっ転んでいる新任教師が一人。


見覚えがありすぎる。

それもそのはず。


名前はルーク・ファブレ。
俺らの担任サマ。



ルークはコケた拍子に散らばった資料を見つめたまま、呆然と固まっている。



いい歳した大人が、何もない所ですっ転んだことにショックを受けているのか。

はたまた、今の現状についていけていないのか…。


いや、どっちもか。


しばらく傍観していると、先生はのろのろと散らばった資料を拾い始めた。



うわ、なんか切ねぇ。




何というか、小さい子が買ったケーキ落っことした姿を近くで見ていた通りすがりの大人、の気分。


気まずいことこの上ない。



わー、見てるこっちが泣けてくるね、これ。



ちょっと面倒臭いと思いつつも、そこで放っておけないのがユーリ・ローウェル。


ユーリはふぅと、息を吐くと、絶賛落ち込み中の担任の元へと近付き
プリントを拾うのを手伝った。




そこで初めて、ユーリに気が付いた彼は、
驚いたようにパッと顔を上げる。


そして、あ、と声を出したかと思うと、
至極気まずそうにこちらをチラリと見つめてきた。


「……見た?」


何をとは訊かなかったが、内容が先ほどの見事な転びっぷりのことだというのは明らかだ。

なので「はい、バッチリ」と、嫌味なほど素直に答えてみる。


するとルークはバッと両手で顔を覆い「あああっ」と唸り始めた。

耳が真っ赤だ。


「ううっ。オレ…今、人として何かなくした気がする…」


「……」


この人ちょっと面白いかも、とか、思ってしまった瞬間だった。



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