短編小説
□『朱の女神、黒の騎士』
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ここは、水上の帝都グランコクマ。
その中心を担う宮殿を、今日も今日とて
金髪の青年がせわしなく走り回る。
バンッ!と壊れる勢いで、ガイは執務室のドアを開け放った。
「ジェイドの旦那…!ルークを見なかったか!?」
ジェイドと呼ばれた男は肩をすくめ、
「…またですか」と呟いた。
「ああ、ちょっと目を離した隙に…!」
「やれやれ。困ったお姫様ですねぇ」
この国の姫君、ルークの脱走劇は
実のところ日常茶飯事。
学業や政治よりも、自然や人々とたわむれることを好み、
女でありながら剣術を特技とする。
それゆえに、あの無邪気な笑顔には、
誰もが魅了されるものがあった。
が、仮にも一国の姫君。
彼らの心配は尽きない。
「おそらくラピードも一緒でしょうし、大丈夫だとは思いますが…」
「ルークぅぅぅッ!!」
※
少女は長く朱い髪をなびかせ、草むらをかきわける。
その後ろには片目に傷痕を残す犬が一匹。
「薬草、見ぃーっけ♪」
ルークは探し物を見付けると、満面の笑みを浮かべる。
そして薬草が生え広がる原っぱに座り込むと、
一つ一つ丁寧に摘みはじめた。