短編小説
□兄弟だけど 後編
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押し黙ってしまったユーリを見るなり、男は「あ〜…」と声を上げた。
「先に言っておくが、ルークの悩みの根っこは君にあるみたいだぜ」
予想外の発言に思わず目を向けた。
ユーリが怪訝な顔をすると、男は困ったように眉を下げる。
「…本当はルークの許可なく話すのは本意じゃないんだが、そうでもしないとあんた達こじれそうでな」
「どういうことだ?」
言いたいことがいまいち掴めず、先を促す。
「単刀直入に言うと、ルークは弟に彼女ができて
いつか側にいられなくなることが寂しいんだとさ」
「………」
一瞬思考が停止した。
…色々、思うところはあるが。
まず耳を疑うような単語が引っかかる。
というか、
「彼女ってなんだッ」
「出来たんじゃないのか?彼女」
「出来てねぇよ!」
何でンなことになってんだよこのあほうは!
とりあえず寝ているルークに内心で思いっきり罵倒する。
「でもいつかは出来るだろう?」
憤りがやや傾く。
ユーリは別段、驚いたふうでも不愉快なふうでもなく、ただまっすぐに男を見返した。
「お前たち兄弟が仲がいいのは分かる。けど、いつか二人は離れなきゃならない。その兆しが今回は君の"彼女疑惑"だったってだけの話だ」
まぁルークの勘違いだったみたいだけどな、と男は苦笑しながら言い足した。
「ルークは弟には幸せになってほしいと思ってる。でも離れるのはたまらなく寂しい。だから、辛い。
ルークにしたら究極のジレンマだろうさ」
ユーリは一度、静かに目を伏せた。
そして再び相手を見据える。
だったら、
「そんなに辛いんだったら離れなきゃいいだろ」
男が目を見開いた。
正気か?とでも言うように。
しかしユーリはそれを嘲笑うかのようの一蹴する。
「こいつに彼女とやらが出来たらちゃんと離れるさ。けどそれは今じゃない」
兄弟と言っても、血の繋がりはない。
出会った当時
こんな生意気で可愛げのなかったガキ一人、放っとくことだってできたはずなのに、
ルークは側にいて、一緒に泣いてくれた。
無条件であんなに他人から大事にされたことは、一度もなかった。
死んでも言えねーけど
本当はあの時から、ずっと救われていた。
「俺はルークになら人生狂わされても構わねーんだよ」
他人から見たら非常識でバカげてるかもしれない。
でも俺にはそんなことどうだっていい。
「俺は世界で一番こいつが大事だ」
誰よりも、何よりも。
ガイは、今は無人となったカウンターで一人呆然としていた。
幾らか時間が過ぎ、ようやく息を吐く。
ユーリの言葉は、ガイの常識を揺るぎなく潰えさせた。
失望や反感などではない。
むしろ気持ちが高揚するような。
お互いが大事で、側にいる。
なんのことはない、単純な話だ。
でも単純だからこそ、まっすぐでぶれることはない。
ガイはそんな心中での独り言ちを最後に、残りの酒をあおった。
END